605人が本棚に入れています
本棚に追加
/665ページ
え、後ろって……? え……?
流石に冗談でしょ?
「お前男とヤッたことあんの?」
「あるわけねーじゃん。でも見てたらちょっとヤってみてぇなって思ってきた」
「個室に移動させて。お前外で見張ってろ」
どの発言が誰かなんて、もう分からない。
このままじゃこんなところで犯される。
そんなの、絶対に嫌だ。ごめんだ。
「おいちょっと、暴れんな!」
なりふり構わず暴れ始めたおれを、1人目の男が取り押さえようとやってくる。2人目は相変わらず口の中に押し込んだまま。もういっそ噛んでやろうと思ったとき、近くでカメラのシャッター音が聞こえた。
「大人しく言うこと聞かねーとばら撒くぞ」
耳元でささやかれる恐ろしい言葉。
もう、どうしていいかわからなくなった。
ただ泣くことしか出来なくて、抵抗もできず今度は個室に引きずり込まれていく。
「声上げてみろ、お前が犯されてる動画全校にばら撒いてやるからな」
そんな風に言われてしまえば、言うことを聞く以外に選択肢なんてない。
泣きながら頷くことしかできなくて、もう、抵抗しようとも思えなかった。
トイレのタンクに両手をつくよう指示されて、大人しくその通りにする。
隣に立った二人目の男が、もう一度おれの口のなかに押し込んでまた腰を振り出した。
どう頑張ったって逃げられないだろうし、下手に抵抗を続けるよりは我慢した方が早く終わるだろうし、痛くなさそうだから。
誰の手か分からないけど、おれのベルトを外そうとしている。
あぁもうだめだ。本当に終わった、とまた涙がこぼれ落ちたときだった。
雄叫びと騒音が、トイレ中に響き渡ったんだ。
いきなりの大音量に、身体が飛び上がる。
「お楽しみ中すみませんねぇえぇ!!」
聞こえてきたのは、怒鳴るような炎の声だった。
何が起こってるのか全然わからないまま、それでも声が聞こえた方向に振り返る。
開け放たれたままの個室のドアの前に立っていたのはやっぱり炎だった。
おれに覆いかぶさっていた先輩の襟首を鷲掴んで、力づくで引き離し、奥の壁に向かって投げ捨てる。
立ち向かってくる先輩方の攻撃を、なんの造作もないようなそぶりで受け止めては殴り返して吹っ飛ばす。
そんな目の前の光景が飲み込めないまま、信じられないまま、こっちには目もくれず次々と先輩たちに手を出していく炎の姿を、おれは呆然と眺めてた。
だって、どうして炎がここに……?
チャイムはさっき鳴ってたから、今はもう授業が始まってる筈だ。
「千聖ッ!?」
次に聞こえたのは維折の声だった。
悲鳴を上げるように呼ばれた名前に、おれの身体はやっと動く。無意識だった。維折の姿を見つける前に、転ぶように個室を飛び出した。
「いおりっ……」
維折の姿を見つけた瞬間、震える足が身体を支えきれなくなって、ガクンと膝が折れる。そのまま地面に手をつきそうになったおれの腕を、維折が咄嗟に掴んでくれた。
最初のコメントを投稿しよう!