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その家には見覚えがあった。
たぶん、遠い昔、訪れたことのある家だという記憶がある。
幼い頃の記憶なので、それが誰の家なのかはわからない。ただ、その家でしばらくそこの子供と遊んでいると、おじいさんが部屋の中に入ってきて、目の前でパンっと手を打ったのだ。
すると、何故か自分の家の前に立っていた。これは夢の記憶なのかもしれない。
だが、今目の前に、その家がある。
中から男の子と女の子が出てきて庭で遊んでいる。
「あぁ」
俺は思わず、声に出してしまった。
あれは俺が一緒に遊んだ子供たちだ。漠然とそう感じた。
そもそも、その家を見たのは、今回が初めてではない。
過去に何度か同じ家に遭遇して、そのたびにデジャヴを感じていたのだ。
だが、その家の住人からは俺が見えないのか、いくら覗き込んでもまったく気付かないようだった。不思議な家だった。ふとした拍子に目の前に忽然と現れる家。
何度か、その家があった場所に、もう一度足を運んでみても、そこには別の家が建っていたり、空き地だったりしたのだ。
俺はその家を訪ねてみることにした。
どうして時々俺の目の前に現れるのか。理由が知りたかった。
「こんにちは」
俺がその家の玄関に立つと、中から女性が出てきて驚いた顔をした。
「お客さんなんて、十数年ぶりでびっくりしたわ」
不思議なことを言う女性だった。その後ろから、男の子と女の子の二人が覗いて居て、少し恥ずかしそうに母親の後ろに隠れていた。どうぞと中に通されると、居間のソファーに男性が腰かけていた。おそらくこの女性の夫で、この子達の父親であろう。
「ようこそ」
そう微笑みながら、ソファに座るように俺に促して来た。
「いやあ、しかし、よくこの家に辿り着けましたね」
この男も、俺に不思議なことを言った。
何故か俺は、その家で手厚くもてなされて、子供たちも次第に打ち解けてきて、お兄ちゃん、遊んでとせがんできたので、一緒に遊んであげた。
夕飯もごちそうになり、夜も遅いから泊って行けばと言われ、何故かお言葉に甘えることにした。不思議な感覚だった。以前からずっと知っている、親戚の家のような気すらした。
俺は、ふと思い出し、たずねてみた。
「あの、おじいさんは?」
すると、男の顔が寂しそうに微笑み、
「ああ、父は亡くなりました」
と言った。
そうだよな。もうあれから十数年経っているのだ。
待てよ?おかしくないか?
あれから十数年経っているのなら、この人達も老いているはずだし、子供たちも俺と同い年くらいになってなければならない。
そもそも、この家自体が彷徨っているのだ。
俺は嫌な予感がした。
その予感は的中し、俺はその家を出ることができなくなっていた。
玄関を出て、いくら自分の家に帰ろうとしても、この家に帰ってきてしまうのだ。
「まさかねえ、君がこの家に帰ってくるとは思わなかった。君が小さい頃、この家に迷い込んでしまった時に、うちの父が君の目の前で手を打って返してくれただろう?でも、二回目に自分の意思でこの家を訪ねてしまったら、もうダメなんだ。ごめんね。家族になってくれる?」
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