第二十話:引っ越してきた人

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 こちらの心を読んだかのように、見越は穏やかな口調でそう告げてきた。 「助かります。いや、本当はきちんと下調べや手続きをしなくちゃいけないんでしょうけどね。どうにも、そういうのは苦手なもので」  ごまかすように苦笑しながら言って、俺は飲みかけのペットボトルにわざとらしく口をつけた。 「堅苦しい手続きというのは、誰でも内心では面倒だやりたくないと思うのが普通ですよ。ましてや、今から行く場所なんて現在は誰が管理しているのか、そもそも管理自体されているのか地元の人だって知らないと言っているような所です。調べたところで、恐らくはすぐに手詰まりになっていたことでしょう」 「え? そうなんですか?」 「本来は、遺族や親戚等が管理を引き継いだりするのでしょうが、さすがにあんな事件が起きた場所を管理したがる人はまずいないでしょうから。そういう関係で、色々あったのではないでしょうか」  無人になって久しい家屋を取り壊したくとも、現在の管理人が誰なのか不明であったり連絡がつかなくなっていたりで、そのまま放置されている物件は結構あるというのは知っている。
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