Die Kaiserwahl ~皇帝選挙~ 

1/12
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

Die Kaiserwahl ~皇帝選挙~ 

 聖暦1579年。エウロパ世界の南方、エルドラニア王国の王都マジョリアーナの王宮……。 「――預言皇が対抗馬にフランクルーゼを擁立しただって!?」  若干二十歳の若きエルドラニア国王カルロマグノ一世は、その報告に驚きの声をあげていた。  まだどこか幼さの残るその顔を引き攣らせ、鳶色をした瞳を皿のように大きく見開いている。 「はい、現預言皇レオポルドス10世は陛下のお家――即ちハビヒツブルク家の勢力拡大を快く思っておりませぬからな。これを気に勢力を弱めるつもりでしょう」  王の驚きに、緋色の平服を着た枢軸卿シメハス・デ・スシロウテスは、いつもの厳めしい表情を崩すことなく淡々とそう答える。  この老僧はエウロパ世界の秩序の根幹・プロフェシア教会の頂点に立つ預言皇を支える枢軸卿の一人であるとともに、エルドラニアにおける最高位聖職者・ドレッド大司教でもあり、また、カルロマグノが王位に就くまでは、母フアンナ女王の摂政を務めていた賢臣でもある。 「先帝マグスミレニアス一世はご自身や子女の婚姻を通してハビヒツブルク家の権勢をエウロパ世界全土へと広げました。また、本来必要な預言皇の手による戴冠を経ずして即位し、帝国における預言皇の影響力を排除なされた。預言皇としても、それは目障りにお思いのことでしょうな」  今、彼らが語り合っているのは、神聖イスカンドリア帝国の皇帝を選出する帝国選挙の話だ。  神聖イスカンドリア帝国――それは、古代の大帝国イスカンドリアの後裔を称する、北はガルマーナ地方から南はウェトルスリア地方までの広範囲を領域とした領邦国家(※公国のような小国)や自治都市の集合体である。  それを統べるイスカンドリア皇帝は、かつてカロルスマグヌス四世帝が発布した〝金璽勅令〟の定めるところに従い、七人の選王候による投票で選出されることになっている。  選王侯とは、この帝国選挙権を持つ聖界・俗界の有力諸侯のことであり、即ちマイエンズ大司教、トリエリア大司教、コルン大司教の聖世候三人、ボヘーミャン王、レヌーズ宮中伯、ザックシェン公、ブランデーバーグ辺境伯の俗世候四人である。  ちなみに皇帝を選ぶのになぜ〝選()侯〟なのかといえば、本来、預言皇による戴冠をすませない限り皇帝としては認められず、彼らが選出するのはあくまで古代イスカンドリア帝国の古都イスカンドリーアの王であるためだ。  先頃、前皇帝マグスミレニアス一世が崩御したことにより、そんなイスカンドリーア王を選ぶ帝国選挙が今まさに開かれようとしていた……。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!