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「飛行機、カッコいいだろう」
「あ?ああ……」
処女喪失の翌日。怠い足腰と全身の筋肉痛を無視して、四時間のドライブを耐えきった。
ショウが運転するより三十分は早く着いた、とドヤ顔してくるスピード狂のリラには礼を言うべきなのだろう。たとえ四時間ほぼノンストップでおしゃべりに付き合わされたとしてもだ。
勝手に話すし、こっちにも答えを要求するくせに、察した顔で体の不調については何も聞いてこないから、知らぬ存ぜぬを通した。考え事なんかする余裕もないドライブは、リラの気遣いだったのかもしれない。
約一ヶ月前にも来たはずの空港だが、初めて来たような感覚が拭えなかった。周りを見る余裕なんかなかったもんな、と他人事のように思う。
「丸い方はコル、シダの新芽だ。シダが生活に欠かせなかったマオリにとって、シダの新芽は繁栄のシンボルで、成長とか、新たな力って意味で使われる」
リラの説明に、だだっ広い空港の離発着場を行き交う飛行機を見やる。白と黒でカラーリングされたそいつらは、土産屋や街中のそこかしこで見かける柄でデザインされていた。
「シダの葉はシルバーファーン。裏が真っ白で、月光に晒すとすげえ目立つ。……昔、暗い夜道で人々を導いた」
迷うことなんか何もないみたいな顔で、リアは空と同じ色の瞳を俺に向けてくる。ポケットに手を突っ込んで、車の鍵に着いていたキーホルダーを外して寄越してきた。
ここ一週間弱、深く詮索もせずに俺の頼みを聞いてくれた若者は、ニカッと笑う。ろくに礼もできていないが、そんなことは全く気にしていなさそうだ。
「貸してやるよ。帰り道を教えてくれるお守りだ」
シルバーファーンの掘られたキーホルダーには、飾り石にグリーンストーンが付いていた。壊すのも失くすのもいやで部屋に置いてきたショウがくれた写真立てを思うと、少し寂しい。
「迷子になんなよ、アオ」
「ああ」
キーホルダーを受け取った手を握り、リアの拳とぶつけ合う。友達みたいだな、と口を滑らせて、友達だろうが、とデコピンをくらった。
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