鳥の少女は舞台に舞う

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鳥の少女は舞台に舞う

峻嶮な鉱山に国土を構える小国家、ボルゲベルグ。鉄鋼業と養鳥が盛んで、近年は大型鳥を利用した空輸技術が台頭していたことで名が知れて来た、歴史はあるが進出気鋭という印象の国である。 その国の住人は小人のドワーフ族、鳥の名残を残した鳥人族、そして人間の三種族から構成されていることでも知られている。とりわけ世界の技術革新にはドワーフの手先の器用さと怪力が役立った背景から世界中の工業地帯で見かけることがあるほどに生息域が広いが、美しい髪と鳥の羽毛の名残が残る長い耳が特徴の鳥人族はこの国くらいしかいないという希少な人種なのだ。 さて、そんなボルゲベルク国には、他国の情勢を知るために世界中に派遣している人員がいた。平たく言えばスパイである。彼らはこの国で鳥を操る術を学び、定期的に鳥に伝書を取り付けて情報を中枢部へ伝達しているのだ。 今日も陽が暮れてから、一羽の小鳥が執務室の窓から飛び込んで来た。その部屋の机で書物に目を通していた女性が、その小鳥を撫でてから足に括られた手紙を取った。彼女こそ、この国の副首長であり経済革新を起こしたボルゲベルクの頭脳、ピリシャ=フォーゲルである。桃色がかった長髪を長い耳にかけ、丸まった手紙を机の上に広げ、切れ長の瞳で目を通す。 「ヒュラのものですね。確かあの子の担当は…テオゴニアでしたか」 テオゴニア。世界屈指の大国で、女性が実権を握る特殊な国家。女性のみで編成された女性騎士団と男性のみで結成された騎士団の二大勢力が存在し、また、ある一人の女性の求心力(カリスマ)によってまとめ上げられた、盤石な国家であることが覗えるだろう。 そんな国に潜入してから早半年。進捗はいかばかりかと書を読み進めたピリシャの目は、一瞬にして釘付けになることとなる。 「ピリシャ様、申し訳ありません。私ヒュラ=フェスランは『(フクロウ)』の活動を一時休止し―― アイドルの道を歩もうと思います」 「……は?」
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