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叫び声と共に、後ろからわたしは引っ張られ、恭ちゃんは奏さんに頬を殴られてそばの立木に背中を打った。
思わず口に手を当てた。
初めて触れたのは、うそ。
恭ちゃんのくちびるだなんて……
「恭一郎!おまえは何をっ!!」
「……奏、どうして戻ってきた」
殴られた恭ちゃんは奏さんに冷たい目を向けた。
初めて見る、本気の怒り。
「恭一郎、おまえの車じゃないかと気づいて。おまえ、今、おチビに何をした!」
奏さんはわたしを庇うように前に出て、恭ちゃんの胸ぐらをつかんだ。
恭ちゃんも奏さんと睨み合う。
「奏には関係ない」
「ある!俺はおチビと約束したんだ。恭一郎から傷つけさせないと!」
約束……あの時の。
それを聞いて恭ちゃんの眉が寄った。
奏さんが続ける。
「恭一郎、今のおまえでは誰も幸せにはできない。アイツをその彼女を、おチビもみんなを振り回してるんだ!」
奏さん……
「本当に彼女が欲しいならアイツに真正面から立ち向かえ!失いたくなかったらどんなことがあっても離さない!それができないおまえから振り回されるおチビを解放しろ!」
息ができない。
あの自信満々の恭ちゃんが奏さんの怒りの声に苦しげに眉を寄せた。
「恭一郎、誤魔化すな。ちゃんと自分の心と向き合え!おまえはもうわかってるはずだ。本当に失いたくないものが何なのか。そのためにはどうすればいいのか」
奏さんが恭ちゃんの胸ぐらをつかんでた手を離した。
「それまでおチビは渡さない。ただ俺は気が短い。……喰わずにいる保証は、ない」
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