273人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
隣のお屋敷は、わたしの家が100個も入るほど広大な敷地に建っていた。
和服を着た男女が庭池の畔を歩く、映画のワンシーンみたいな背景がそのまま広がってて、当然、そこに暮らしているのは一般庶民じゃないわけで。
「兄貴なら奥で親父さんに捕まってるよ。また嫁取りの話だ。可哀想だから助けに行ってくれないか?」
庭の隅から植木の間をくぐっては隣のお屋敷に毎日通ってると、お屋敷で働いてる強面の人たちとも仲良しになって、『恭ちゃん』の居場所をすぐに教えてくれた。
「おまえもいい歳になったし、そろそろ身を固めてもいいんじゃないのか?この前も話したが、儂の知り合いの娘と見合いしてみるのはどうか……ってか、こら、恭一郎。話はまだ終わっておらん!」
「俺は見合いはしないし、これが組長命令だとしても断るからな。もしそんな命令したら今後、親父とは口もきかん」
廊下を歩いてたら部屋からそんな会話が聞こえてきて、すぐに障子が開いた。
聞こえた内容は……たぶん『恭ちゃん』の見合いの話。
「お?美香、来てたのか。今の話、もしかして聞こえてたか?」
「うん、……見合いしろって聞こえちゃった。あ、でも立ち聞きしようとしてたわけじゃなくて」
「ああ、わかってる。おまえは立ち聞きできるほど器用なやつじゃないしな」
頭をなでなでするのは幼い頃からの癖。
恭ちゃんは来月わたしが16歳になるっていうのもわかってないらしい。
最初のコメントを投稿しよう!