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睨み合う恭ちゃんと奏さん。
何を言ってるのかよくわからない。
ただわかったのは、恭ちゃんと彼女が、親友であり、彼女の付き合ってたひととの間で揺れてること。
ふたりの間にはわたしの知らないいろんな事情があるんだろう。
奏さんは、ふたりの関係をちゃんとしろ、はっきりしろって言ってるんだ。
「……奏、おまえ」
「俺は優しくない。守るため、手にいれるためならどんな汚い手でも使う」
恭ちゃんの体が震えてくる。
怒りを通り越して今にも飛びかかりそうだった。
「だが、恭一郎、俺はおまえを信じてる」
奏さんが睨む恭ちゃんを見てはっきり言った。
信じてる。その一言で恭ちゃんの表情が変わった。
怒りが消え、奏さんを見据えてる。
そして、奏さんはわたしを振り返って「行こうか」と呼んだ。
後は恭一郎の問題だからと、言い残して。
わたしは促されるままに奏さんとその場を離れた。
恭ちゃんからの別れのくちづけに、もうこれが本当に最後だと涙がこぼれたまま。
「おチビ……」
「わたしには恭ちゃんの妹でいることができなかった。だから……」
恭ちゃんの妹にはなれなかった。
それだけ……
「……泣いていいぞ」
奏さんは声を殺して泣くわたしの頭をそっと抱き寄せた。
その温もりに包まれて堪えてた声は嗚咽に変わっていった。
「俺は、おまえを絶対に幸せにしてやるからな」
まだ冷たい風がわたしの頬を濡らしてく。
その背中を優しく包む奏さんがいた───
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