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ここ最近ずっと、私は暇さえあれば藤沢先輩を観察している。
いつも不機嫌な藤沢先輩のことは、以前からなんとなく気になっていた。
どうしていつも不機嫌なんだろう? そういった顔をしている割に、対応はいつも丁寧なのに。
口調は素っ気ないし、二言三言しか話さないけれど、面倒くさいといった感じはしない。
となると、不機嫌のワケを知りたくなってくるのが、人情というものだ。
藤沢先輩を観察していて、わかったことがある。
私が丁度いない時で、藤沢先輩が貸出手続きをしている時、相手に怖がられているのを感じていつもより少しだけ優しい声を出すこと。相手が図書室を出ていった後、疲れたような溜息をつくこと。
藤沢先輩は先輩なりに気を遣っているのだ。先輩の様子を見て、そう思った。
藤沢先輩はたぶん、人見知りだ。
先輩は物静かでずっと本を読んでいるイメージだけれど、同じ学年で親しい人たちといる時は時折も笑顔も見せるし、寡黙ということもない。図書委員会では同じ二年の田中一先輩と仲がいいみたいで、田中先輩と一緒にいる時の藤沢先輩は、リラックスしているように見える。この二人がどうして組まなかったのか疑問だ。
「すみません、貸出お願いします」
「はい」
受付に本を持ってこられ、私は処理を始める。一人が来ると、後に人が続く。
「……」
手は止めず、受付に並ぶ列を見る。ことごとく、人は私の方へ並ぶ。藤沢先輩もいるというのに。
これもいつものことだった。藤沢先輩が対応する時は、いつも私が席を外している時だ。それでも稀に、早く処理してもらいたい人なんかは藤沢先輩の方へ行くこともある。
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