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幾分むきになってしまった態度に虚を突かれたのか、真宙がきょとんとした顔で答える。
「何って、さっき言ったろ。俺の成功のためを思って、肌を大事にケアしてくれるのが伝わるって」
「あ、ああ……それか」
「他に何があるって言うんだ?」
探るような目つきを向けられ、祐樹は慌てて何も無いと首を振った。
「役柄上、色々考えてしまうんだ。人魚姫は本当の正体を知られて、王子に拒絶されるのが怖くて、恋心ごと自分を殺したんじゃないかって……」
やはり真宙は祐樹の気持ちに気が付いていて、かまをかけているのではないかと息苦しくなる。
もし、そうなら、人魚ではないけれど、いっそ泡になってこの場から消えてしまいたいと、祐樹は思った。
「真宙なら、お前が人魚なら、どうやって気持ちを伝える?」
「そうだな……」と言ったきり、真宙は黙りこくった。そしておもむろに考えておくと小声で答えると、決心がついたようにすっきりした顔を祐樹に向けた。
「映画の撮影の時に、俺なりのやり方を見せる」
真宙の言葉の真意を測りかね祐樹は追及しようとしたが、真宙はさっさと話題を変えてしまい、一瞬浮かんだ思いつめたような表情を消してしまった。
二日後に日本から来た番組スタッフと、ロスのクルーによって「友情トリップ」が収録された。
撮影中、二人は街の様子や映画について語ったが、祐樹が聞きたかった人魚の気持ちについて、真宙は二度と口にしなかった。
空港で真宙たちを見送った後も祐樹はわだかまりを拭いきれず、物理的にも気持ちの上でも、取り残されたように感じていた。
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