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「……美咲?」
両親に対しここまで激しく感情を表したのは、はじめてだったかもしれない。
母は、さっき彼をはじめて見たときよりも驚いた顔をしていた。
だがそんなこと構っていられない。
「せっかくここまで来てくれたのにきちんと話も聞かないなんて、そんなの失礼過ぎるじゃない!確かに湊くんは私より十二も年下だけど、きっと、あっという間に私の立場を追い越していきそうなくらいに仕事ができる人なの!収入だって何よ!そんなの、結婚するんだから二人まとめての収入でいいじゃない!どっちが多いとかそんなの関係ないわ!」
「美咲、落ち着きなさい」
「でもお母さん!」
「美咲さん、僕は大丈夫だから。ね、ご両親がびっくりなさってるから……」
無我夢中で父に反論していた私を、母と彼が宥めるように言い聞かせてくる。
私はひとまず言葉を飲み込んだものの、自分の中にこんな激しい想いがあったことに、自分でも驚いていた。
さすがに父も無表情を解き、瞠目していた。
そして軽く咳払いをすると、また彼に向き直った。
「確かに、経済的なことは美咲が働いていれば問題ないだろう。だが、榊原さんは若い。それにとても魅力的な容姿をしてらっしゃる。きっと女性からも人気がおありでしょう。この先、もし心変わりなどと…」
「あり得ません」
今度は、彼が父のセリフを遮って答えた。
礼儀正しくも鋭利な物言いだった。
「それだけはあり得ません。僕が美咲さん以外の女性を好きになるなんて、世界が変わってもあり得ません」
「そうかな?今はまだ付き合いも浅いからそう言えるかもしれないが、十年後、きみはまだ三十四だが美咲は五十手前だ。それでも今と変わらずにいられると?」
「美咲さんなら、例え顔中皺だらけになっても、背中が曲がってよぼよぼのお婆さんになっても愛せます。そのことだけは、いくら美咲さんのお父様だとしても否定していただきたくはありません」
皺だらけ… よぼよぼのお婆さん…
どうしてだろう、言葉としては滑稽にも感じるのに、胸が熱くなって、鼻先がツンとして、目頭にじわりと来るものがあった。
私は軽く握った拳を唇に当てて小さく呼吸を整えた。
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