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ドアを開けると、その人影は赤い夕陽を背にして逆光で酷く真っ黒で禍々しい物に見えた。そのように見えたのは確かで、目が慣れるにつれて、その人の表情は怒りに歪んでいたし、逢魔が時に誰そ彼と言うほどには黄昏ている老人でもあり、見たことも無いおじいさんだった。
「誰?」
私は恐る恐る、その人に聞く。それには答えず、そのおじいさんは逆に
「君は?」と尋ねてきた。
「カンナ・・・」
私が小さく答えると、奥から父ちゃんの声がした。
「カンナ~?お客様か?」
風呂上がりで、バスタオルで頭を拭きながら父ちゃんが後ろからやってきたので私はほっとした。
「ちづるは居るか?」
おじいさんは仏頂面で父ちゃんに問う。父ちゃんは、おじいさんを確認すると、小さく、あっと声を上げたあとにこう言った。
「お父さん?」
そう言った途端に、おじいさんの顔が真っ赤になり目が吊り上がった。
「お前にお父さん呼ばわりされる覚えはな・・・・っ」
おじいさんが怒鳴りながらズカズカと上がり込んで父ちゃんの顔を近くで見てはっとして言葉を失った。
「お、お前・・・もしや・・・マコトか?」
「久しぶりだね、父さん」
父ちゃんがいつもの関西弁が嘘のように、綺麗な標準語の発音でそう言った。「しばらく姿を見せないと思ったら・・・そういうことだったのか」
おじいさんの声はより低くなり、心底怒っているのがわかるほどには、小刻みに手が震えていた。
「ちづるはどこに行ったんだ。ようやくここを探し当てたのに・・・」
「まぁ、ここじゃなんだから、上がりなよ」
父ちゃんはとてもバツが悪そうに鼻を掻いた。
三人で小さなちゃぶ台を囲むと、父ちゃんが冷たい麦茶を人数分運んできた。
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