9 再び、君を

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 元気良く手を振り家の中に入っていく所まで見送ると車を出す。  そのまま自身のマンションに向かった僕は、駐車場に車を停めマンションのオートロックをカードで外し、エントランスに向かおうとした。 「三宮さん」  そこで耳に馴染んだ声に振り返り、「晴翔くん」と僕を待っていたらしき人の名を呼ぶ。 「ちょっと話、良いですか?」  不穏な気配を感じながら、「良いよ」と返し共にドアを潜り抜けた。 △▽ 「ここ、かな?」  手元の地図で場所を確認しながら、僕は目の前の建物を見つめた。  赤いレンガで固められ、こじんまりとしているその様は女子に人気が高そうだ。だが今は平日の昼だからか踏み入った店内はあまり人が居らず、待ち人はすぐに見つける事が出来た。 「君が……晴翔くんが言っていた人?」 「晴翔くん……って、確か羅尾くんのお兄さん、ですよね?」 「そうだよ」 「ならそうです。僕は篠宮悠衣、緋佐の友達です」 「言うまでもないと思うけど、僕は三宮呂久。それで、もう僕は緋佐くんと関係ないはずなんだけど、何の用なの?」  昨日僕のマンションに押しかけ地図だけ書いて『こうでもしないと、メッセージだけなら無視しそうですしね』とここに来るように場所と日時だけを伝えた晴翔くんを思い出しながら、目の前に座っている緋佐くんの友達だと言う男を見つめた。  そういえば、緋佐くんから聞いたことがあった。大学で唯一仲良くしている、可愛いくて儚い見た目だけれど芯が通っていて、頼りになる友達の存在。  きっと彼がそうなのだろう。僕の酷い別れの理由を聞き、文句でも言いに来たのだろうか。  そう思い強くなる口調に、言いづらそうにしながら彼は続けた。 「三宮さんは……緋佐がオメガって、いつ気づきましたか?」  彼は緋佐くんから話を聞いているのだろう。彼にバレているという事は緋佐くんにもバレている可能性が高い。  緋佐くんが隠していたバースに気が付いていた、という事実は、緋佐くんと別れた今も隠す必要などないだろう。  そう思い店員さんが持ってきたお冷に口を付けながら、クスリと僕は微笑んだ。
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