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信頼
『難しいお年頃』と言われる、女子中学生。
身体の発育と、心の成長のバランスが取りにくいこの時期には、性欲を伴う本格的な恋愛感情の発芽が加わり、さらに問題を深く難しくしている。
まち子とかず子は、中学三年になる同級生。
同じバレーボール部に所属し、同じく三年生になっても補欠にすら選ばれず、
新入生の基礎トレーニングの面倒をみながら、それでも退部せずに頑張る、けなげな二人。
親友と言えるまでの特別な仲ではなかったが、同様の境遇に甘んじる他の数人の三年生部員仲間とともに、
いつもお互いの正直な思いを語り合う間柄である。
ある日、たまたまかず子とまち子が二人きりになった時、まち子が切り出した。
「かず子、誰にも言わないでね。
実は私、アキラくんと付き合ってたの」
他人の恋バナなどにはついぞ無関心なかず子でも、野球部のスーパースターである彼の派手な噂は知っていた。
「え……アキラくんて、確か最近、二年生の子と付き合い始めたとかなんとかいう話を聞いたような……」
「うん。ついこの間、別れてくれって言われて。
『恨んでもいいぞ』って言ってたのは、そういうことだったんだな、って」
まち子は涙をこぼした。
『恨んでもいいぞ』なんて捨て台詞でまち子を切った彼のキザっぷりに、かず子は鳥肌を立てた。
「はあ!? ナニそいつ! 何様!?
そんなやつ、まち子が泣く価値なんてないよ! 別れて正解だよ!」
めそめそするまち子をなぐさめ、彼女の涙がおさまる頃、
かず子はふと気づいた。
仲間うちの恋バナなどに、これまで自分が参加したことなど、一度もないことに。
仲間たちも、かず子がまるで興味を示さないのを知っているから、
話を振ることさえしないのがいつものパターンなのだ。
そんなかず子に、深刻な恋バナの相談相手など、務まるはずがないではないか。
不思議になって、かず子は尋ねた。
「まち子、なんで私に話してくれたの?」
「うん、かず子ならすぐ忘れそうだから♥️」
果たしてそれを、『信頼』というのか?
友人としての自分の立ち位置に、深い疑問を抱いた、かず子、15歳の初夏であった……。
Fin.
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