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 まるでは、せっかくの王冠をポイポイと投げ捨てるように生きていると、俺は思う。 ::: 「やあ、高橋(たかはし)くん」  俺の所属する研究所の奥深く。この部屋は一番小さい。  そのひとはいつも通り、たくさんの資料やファイルが置かれた机の前に座っていた。所狭しと並べられた棚、雑多に置かれた段ボール、導線のことなどお構いなし――典型的な研究者の部屋――がよく似合うひとだと思う。  俺の入室に気づいたそのひとは、ずり落ちそうな丸眼鏡を直しながら、こどものように笑って俺を見た。 「報告書の提出に来ました」  抱えていた報告書を渡すが、そのひとはざっと目を通しただけで、いつまでも片付かない机の右隅に置いた。  ――とりあえずお眼鏡には適った、のだろう。纏めたはいいが、少し難儀したので、内心ほっとする。  しかし、容易に心を見せるのも癪で、あえて無表情を作った。 「まあまあ、そんな顔しないで~。そうだ、お茶にしようと思ってたんだよねえ。ちょっと付き合ってよ」  トレードマークの笑い皺をくっきりとさせながら、そのひとは言う。  ああ、いつものが始まった。来客を理由にサボりたがる悪い癖。
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