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Level1 ベルーガ
どうしてこうなった……。その疑問はもう何十回も頭の中で繰り返したが、一向に答えは出てこなかった。なるべくしてなった状況なのかもしれないし、そうではない気もする。
いや、そうではない。頭を振って撤回する。俺の意思の弱さがこの状況を作り出したのだろう。
ささやかな晩酌のために帰る唯一の安息の地。すなわち、俺の2LDKのマンションの部屋。いつもは静寂に包まれているそこに彼女はいた。
冷蔵庫を開けてみたり、キッチンを物色したり、何か見つけるたびにはしゃぎまわっている少女。俺はゲーム情報雑誌をパラパラとめくり読みしている彼女に、遠慮がちに声をかけた。
「や、やっぱり帰らないか……? 君も学校とかあるだろう? それにこんなおっさんの部屋にいたって楽しくないだろ?」
彼女の顔から笑顔が消えて、手に持っていた雑誌が床に落ち乾いた音を立てる。
「明日は、土曜日だよ。少なくともあと二日は学校には怪しまれない。それに……」
彼女は手を祈るように組んで満面の笑みを浮かべ、俺に詰め寄ってきた。思わず俺は二三歩後ずさる。
「あの人気ナンバーワンゲーム実況者『ベルーガ』の家にいるんだよ!! 帰るわけないじゃない! 死んでも帰らないんだから!」
興奮気味の彼女からキラキラとした尊敬のまなざしが俺に注がれる。うっ、眩しい! 彼女は上機嫌に鼻歌を歌いながら、寝室のある方へ向かっていく。
「やっぱ独身っていうウワサは本当だったんだねー。うわーベッドふかふか! あははは!」
寝室から彼女の笑い声が聞こえてくる。リビングで俺は頭を抱えてしゃがみこんだ。どうしてこうなった……。なんで人気ナンバーツーゲーム実況者の『りりぃ』(しかも女子高生)を俺みたいなおっさんが家に連れ込むハメになった……。
考えろ、考えるんだ。事の発端は三時間前に喫茶店でりりぃに会ったところから始まる。
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