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おれは、新潟県警外局機関の河川警邏隊員。
小型の警邏艇に乗って阿賀野川のパトロールを行う。船舶の不法係留取締まり、水難救助、河川敷の不法投棄、密漁取締まりなどが主任務だ。
相棒は猫。
これは、おれが経験した奇妙な捜査案件である。
したがって、正式な記録は残していない。
おれの乗った警邏艇は、広大な河口をゆっくりと航行中だった。
全長210キロの阿賀野川は、日本海に注ぐ最大級の1級河川である。河口付近の水量は途方もなく膨大で、幅はおよそ千メートルあり、まるで湖に流れついたような錯覚にとらわれる。
あたりいちめんに、細かい雨が降りしきり、水面も空も灰色に滲んでいた。
日本海に停滞した前線の影響で、しばらく雨はやまないそうだ。
ただ、岸辺の木々だけが翡翠色に濡れて鮮やかにみえた。
午後六時少し前だった。
緊急無線が鳴った。
<琴平橋運動公園の川岸に小学生女児が一名。目印はピンク色のランドセルと黄色い学童帽子。川に落ちたら大変なので、注意してほしいとの通報あり>
おれは無線機をとりながら、暗い空を見上げた。夕方の雨降りの河川敷をひとりだって?
「通報者は?」
<車を運転中のドライバーからで、琴平橋から見えたそうです>
琴平橋はここから5キロほど上流にある。
「了解」
おれはスロットルレバーを全開にした。
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