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でも、葉月ちゃんといる時の志貴さんの顔は、私といる時とは全く違う。
「でも、新婚旅行もなしなんです」
「そのうち、どっか連れてくって言ってるだろ?」
「そのうち、っていつですか? 何月何日何時何分?」
「小学生かよ、てめー」
二人の漫才みたいな掛け合いにとても入っていけない、と思ってしまう。丁寧で理知的なのが、志貴くんの言葉選びのイメージだったのに。
葉月ちゃんといる時の彼は、私が知ってる彼とは全く違って戸惑う。
私が見ていた志貴くんは、本当に志貴くんだったのかな…。
志貴くんと葉月ちゃんにもう一度お祝いを言って、私は教会のガーデンをひとりでぷらっと歩く。結婚式日和。そんな言葉はないけれど、空からも祝福されてるみたい。
空は青くて、白い雲がぷかぷか浮いている。いい天気。伸びをして、空に手をかざしたくなる…。
「芽衣子ちゃん」
首を九十度傾けて、空を見上げていた私は、背後から呼ばれて、びくっとなった。
振り返ると立っていたのは、黒スーツの男性。スーツ自体はシンプルだけど、中のベストと青い鮮やかなネクタイがおしゃれ。だけど奇を衒ってる風ではなく、品よく着こなしてる。見た目は志貴くんと同じくらいイケメンのこの人は。
「…尚司さん…」
あんまり会いたくなかった人に遭遇して、私は思わず一歩引いた。
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