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「君こそ、よく来たね」
長年の私の志貴くんへの思いを知ってて、尚司さんは私をからかう。だから、この人苦手なんだけど。葉月ちゃんにも『馬子にも衣装』なんて失礼なこと言ってたみたいだし。
「志貴くんの晴れ姿は見ておきたかったので」
「まあ、収まるとこに収まった感じで良かったよねえ。君にはしんどい展開かもしれないけどさ」
「…平気です」
しんどそうだと思うのなら、どうしてそっとしておいてくれないんだろう。
式自体は既に終わっていて、列席した人たちは最後の挨拶を新郎新婦と交わして、三々五々散っていく。私も帰ろう。明日も仕事だし。
教会は最寄りの駅まで少しある。来るときは、タクシーで来たから、帰りもタクシーがいいな。配車アプリで呼ぼうとしたら、勝手に画面を戻された。
「何するんですか」
「俺、車で来てるよ」
「はあ…」
それが何。
「送ってあげるから、お茶飲んでいかない?」
「…一人で帰れます」
「そりゃ帰れるだろうけど、二人の方が楽しいし、おまけに芽衣子ちゃん、車に乗せてもらって楽出来て一石二鳥じゃない?」
何処が。と言いたいのを必死に我慢した。
この手の手合いは、怒ったら負け怒ったら負け。
「お言葉に甘えて同乗させてもらいます」
「芽衣子ちゃん、硬すぎ」
「…そうですか?」
「処女でしょ」
「……」
公衆の面前でとても口にしてはいけないようなことを、尚司さんは平気で口にしてにやにやしてる。
もう本当にこの人は――。
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