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悪魔と媚薬
私の人生、比較的上手く進んできた方じゃないかと思う。
人付き合いはあまり得意じゃないけれど、人見知りというほどでもない。
大学を卒業し、地方支社だが大手企業に運良く入社することが出来た。社会に出てからは友達じゃないんだから職場の人間関係には気を使ったが、大抵のことは笑顔で乗り切ってきたと思う。
しかし、順風満帆だと思っていられたのは最初の二年、本社勤務になるまでだった。いや正しくは、そこで厄介な先輩に捕まるまでは。
天沢佳純、二十六歳。今現在、人生最大のピンチに陥っている。
「な……何やってくれちゃってるんですか……!」
普段なら絶対利用しないような、最上級ホテルの夜景が綺麗で有名なオーセンティックバー。その入り口を目の前に、うっかり大声を出すところだった。
愕然とする私の腕は、総務の先輩井筒美晴の手に逃がすものかといわんばかりにがっしりと掴まれている。ふわふわくるりんと可愛らしい髪型で、柔らかな素材のワンピース姿も良く似合う。ただ中身が井筒先輩というだけで、どうしてもあざとく見えてしまうのはなぜなのか。
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