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テレビでも顔馴染みの政財界のトップやプロスポーツ選手。ハリウッドスターや有名ミュージシャン。
各界の著名人が集まったパーティーは公式的ではなく主催者のプライベートなものだがその錚々たる顔触れには眼を見張るものがある。
いかに主催者の顔が広く強い権力を持っているかが伺い知れるその会場の中でつまらなそうにしている青年が居た。
未成年だから、と渡されたシャンパングラスに入った炭酸ジュースは一口も飲まぬまま気が抜けてしまっていた。
英語だけではないいくつかの外国語が飛び交う会場内を見回し目的の相手を探すが姿は見つからない。
「またどっかでハメてんな」
下品な言葉を嫌う社交場で彼は小さく呟くと溜息を付いた。
こんなにもつまらない場所から連れ出してくれる唯一の相手は自分だけ会場から抜け出し楽しんでいるのだと思うと怒りさえ込み上げてくる。
「晟那」
不意に名前を呼ばれその声音に相手を察すると彼=晟那は優しい表情で振り返った。
「何?母さん」
ボディラインが強調される黒いタイトなドレスをスマートに着こなす美しい母を晟那は自慢に思っていた。
「朔那が見当たらないのだけど…」
兄の朔那の姿が消えたのに気付いたのは自分だけではなかった。
「飲み過ぎたから少し休むらしいよ」
パーティー会場に使っている屋敷にはゲストルームがいくつも完備してある。
「珍しいわね。朔那が酔うなんて」
まだ未成年なのだが彼がアルコールにかなり強いことを母親は知っている。
「飲み合わせが悪かったんじゃない?」
疑うことを知らない母に本当のことなど言えるはずもなく晟那は涼しい顔をして嘘を付いた。
「心配ね。晟那。あなた朔那と一緒に先に帰ってなさい。車を用意させるから」
帰宅の許しに晟那は表情を明るくさせた。
「分かった。おやすみなさい。母さん」
「おやすみ。晟那」
頬に触れるだけのキスをすると晟那は会場を出て行った。
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