プロローグ

1/3
298人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ

プロローグ

 水色の車体に2本の白いライン──マイクロバスにしてはやけに角張っており、フロント部分は奇妙に前へ突き出ている。それだけでも少し異様な雰囲気だが、側面にある筈の窓が一切ない事から、この車輌が一般のものではないと推測できる。  日没前、母親に手を引かれた小さな少年が興味深そうに見守るなか、その特型遊撃車は国道246号線から離れ、片側1車線の道路を西へ向かって進んだ。  不規則な車輌の振動に身をゆだねながら、由依(ゆい)はふと左手首に嵌めた腕時計へと目を落とした。18時34分。日の入りは19時。夜が訪れるまでに決着をつけたい。  向かい合って座る隊員たちの表情は落ち着いている。これまでに幾度となく共に死線を越えてきた仲間だ、安心して背中を任せられる。 『目標到達まで30秒』  ヘルメットに内臓されたヘッドセットから冷静な声音が告げた。運転を担当している支援班の寒河江(さがえ)だ。 「各自、装備の最終チェック、降車用意」  由依の指示で、車内に耳障りな金属音がカチャカチャと鳴り響いた。  突入班6名、援護班6名、支援班4名の計16名が、車輌後部に詰め込まれている。黒のアサルトスーツを通して互いの動きを感じられるほど密着しなければならないその僅かなスペースで、拳銃や自動小銃をはじめ、ヘルメットや防弾バイザー、靴紐に至るまで素早くチェックする。 『さー、ちゃっちゃと終わらせて、飲みに行くぞぉ。可愛い由依ちゃんからご褒美もあるってよ!』  この声は援護班班長の香月(こうづき)だ。ヘッドセットから圧し殺した笑い声が幾つも聞こえてくる。由依は忌々しげに舌打ちした。 「香月。あとで覚えてろ」 『きゃーっ! 怒ってもクールな由依ちゃんステキーッ!』  何か言い返してやろうと口を開きかけたところで、急ブレーキとともに車輌が急停止した。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!