冬から春、きっといつか……

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 加瀬くんとの再会は三学期の始業式。  明日一日登校したら、自由登校という名目の学校には来なくていい日々となる。  今日も明日も三年生は午前中で終わり。  だったら、こんな登校の意味を見出せないでもないけれど。  それでもやはりこれは必要な時間なのだ。  この二日が過ぎれば卒業式までは顔を合わせないだろうクラスメートとの別れを惜しむ時間だから。  互いにエールを送り合う、大学受験に挑む仲間たちとの残り少ない時間。 「帰り、付き合ってよ、海音」  朝に顔を合わせてから何となく気まずいままでいた加瀬くんとの最初の会話が帰りのHRの最中。  誰にも聞こえないように小さな声で話しかけられた。  3学期、卒業前に私たちの座席は4月と同じ出席番号順に並び替えられていた。  どっちからおはようを言えばいいのか、と目を合わせてお互いに反らしたのは朝のこと。  やっと会話らしき会話となったのはそれから3時間半後の今なのだ。 「無理だよ、私今日は由衣ちゃんたちとランチ食べるんだもん」  突然の誘いに私も小さな声で断りを入れる。 「じゃあ、(ソレ)終わったら連絡して! 駅前にいるから」 「は?! あ、ちょっと、加瀬くん?!」  加瀬くんからの一方的な約束と共にHRは終わり私の返事も待たずに教室を出て行ってしまう。  ……、自分勝手だよ、クリスマスの時もそうだったし。  元旦の時の話だって。  あれから、私一度加瀬くんに電話したんだ、きちんと話し合っておきたくて。  私の想いを全部話したらきっと呆れるだろうなって思いながら。  嫌われちゃうかもしれないなって、勇気を出して電話したというのに。 『電話でなんか済まそうとしないでよ?』  見透かしたような笑いを含んだ声で、じゃあね、とすぐに切られた。  電話で済まそうとした私への仕返しが待ってるのかもしれない。  ……、でも。  明日は山崎くんと会う予定になってるから、加瀬くんと話すのは今日しかないのかも。  そう気を取り直した。
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