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「雨、止まないね」
隣で河田が空を見ながら呟いた。
「そうだな」
かれこれ10分程前から俺たちは放課後の教室で雨宿りをしている。
クラスの委員長である俺と、副委員長の河田が先生に依頼された仕事を終えた頃に通り雨が降ってきたのだ。
「俺、バスだから今からでも帰れるんだけど……」
置き傘を使えば今から帰ることはできる。
「そんなこと言わないでよ~。私、自転車だから一緒に雨が止むの待って!」
さっきからこれの繰り返しである。
窓際で二人、椅子に座り空を見上げている。
「ねぇ、西川」
しばらくの沈黙の後、河田が呼び掛けてきた。
「西川は好きな人いるの?」
「いねぇよ、そんなもん。」
「嘘だ、絶対いるでしょ! ねぇ、誰。絶対言わないから!」
「だから、いねぇって。」
「ふーん。そうなんだ。」
河田はつまらなさそうにまた空を見上げた。
「……河田はいるのかよ?」
「いるよ。」
河田はアッサリ答えた。
「でも、教えてあげない。西川も教えてくれないんだもん。」
「いや、だから俺はホントにいねぇって。」
「はいはい」
河田は信じていないようだ。
「なぁ、梅雨ってなんで梅雨って言うか知ってる?」
俺はまた沈黙になるのが嫌で話しかけた。
「梅が熟す時期だからとか、カビが生えやすいから黴雨(ばいう)から文字を変えて梅雨ってなったっていう説とかいろいろあるらしいよ。」
「ふーん。」
河田は心底、興味がなさそうである。
「西川ってさ、そういうどうでもいいことよく知ってるよね!」
河田は感心するようにこちらを見つめてきた。
「それ、バカにしてんの?」
「違うよ、私はそういう西川の物知りなのか、そうでもないのか、よくわからないところ好きよ!」
俺は、急に「好き」という言葉が出て来て少し焦った。
「お前、好きとかってそういう…」
河田は笑いながら言った。
「何、焦ってんの?友達っていう意味に決まってるでしょ?思春期の中学生じゃないんだから…」
「焦ってねぇよ!」
俺はあわてて否定した。
「あ!赤くなってる!!」
河田は追い討ちをかけてきた。
「…ねぇ、梅雨って『あなたへなにか届けたい』っていう意味もあるのかな?」
河田は急に真面目な顔で話し始めた。
「どういう意味だよ?」
「つゆ、つーゆー、To you……なんちゃって!」
「河田、おまえは深刻なバカだ。」
河田は笑っていた。
廊下から見廻りをしている先生が話しかけてきた。
「おーい、お前ら。いちゃついてないで雨が止んだらすぐ帰れよ。」
「いちゃついてなんかいませんよ!」
俺はすぐに否定した。
「はーい、すぐ帰りまーす。」
河田は適当に返事をしている。
「帰りてぇな、早く雨止まないかな」
俺はさっきより強く降る雨を見上げて呟いた。
「そう?私は西川と話すの楽しいからもう少しここにいたいけど?」
河田はこっちを向いた。
河田のキレイな瞳がまっすぐこちらを見つめている
……その顔はずるいよ
(あぁ、雨なんてこのままずっと止まなければいいのに!!)
俺は心の中で強く願った。
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