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綺麗な大きなお城が見える城下町のはずれにその仕立て屋はあった。
とても裕福とは言えないけれど、日々を食べていけるくらいの仕事はあった。
直接の依頼をもらうより、作ったものを販売店に卸す仕事が主になっているから裕福ではない。
わかってはいても依頼をくれるようなお金持ちに抱えられていることもなく、そんな下請けのようなお仕事。
私はその家に生まれた。
お父さんもお母さんも魔法のように綺麗な服を作っていて、私はそれに憧れて同じ仕事ができるようにお針子になった。
少しずつ貴族の方にも名前が知れて、依頼にきてくれるようになって、豪華なドレスも縫うようになった。
貴族の娘のドレス、貴族の息子のタキシード。
私も着てみたいとは思っても、着ていく場所もない。
少し大きくなったからと採寸にいくお母さんにつきあって、貴族のお屋敷にもいくようになった。
綺麗なお嬢様だった。
お母さんの作ったドレスはこういう方が着られるのだと、どこか自慢げになった。
仕立て屋の家に生まれて私は幸せだった。
だけど。
お父さんとお母さんは、いつものように貴族の方の衣装を作って届けた帰り道、何者かに襲われて命を亡くした。
金銭を目当てにした強盗の仕業のようにも思えるけれど、その死には不可解なものが多くて、森の中の薄暗い場所だったこともあって、それは魔女の仕業と言われた。
私は1人になってしまった。
魔女なんていう架空とも言われるものを両親を殺した犯人とされて、誰を憎むこともできずに。
両親の遺体は城で調べられたあと、教会の墓地に埋められた。
その葬儀は国がしてくれたから、少しは馴染みのあった貴族の人や仕事のおつきあいのある人もきて参列してくれたけれど、最後にお墓の前にいたのは私一人。
大人たちは誰も声をかけてはくれなかった。
これからどうすればいいのか、私はわからなかった。
家に帰っても一人。
ぼんやりと両親がいなくなったことを、一人ぼっちになってしまったことを考えても、しばらくは動き出すこともできなかった。
家にあったものを食べて、なくなったらパンを1つ買って食べて生きた。
パンを買うお金もそのうちなくなって、私は飢えて死ぬかもしれない。
そんなことを思いながら過ごしていると、貴族の家の使者がきて、依頼したドレスはまだなのかと言われた。
お父さんとお母さんが亡くなったことを知っているはずなのに。
弟子を抱えていて、その人たちが仕上げてくれるとでも思っていたようで。
前払いしたものもあるから絶対作れと言われて、私が一人でドレスを縫うことにした。
誰もいない静かな家でちくちく。
前払いされたものは、きっとこのドレスに使われた布や糸に使われたのだと思う。
高価なものを作っている。
きっと、お城の舞踏会で着られるものだろう。
あの貴族のお嬢様、ヴィクトワール様が着られるものだろう。
長い柔らかなストレートの黒髪のお嬢様。
次の日には、王都の隣の領地、伯爵家のお坊ちゃんの衣装をという依頼がきた。
お迎えの馬車まできてしまって、私でいいのかと迷いながら、私しかいないとお話するためにもいくしかないと思って、従者の方と馬車に揺られていく。
私のまわりの時間は動いていて。
いつの間にか季節は冬から初夏。
薄暗い森も初夏の緑が茂っていた。
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