3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「君が思っているよりもこの世界は混沌としている。いつ誰が私や君を殺すかもわからないし、国籍不明機が水素爆弾を落としにやってるかもわからない」
僕の背中を何者かの手が撫ぜた。しかしそれは物体の手ではなく、僕自身が錯覚した死神の手でいることに気がついたときには、ここから逃げ出す手段についてはもう考えることを放棄した後だった。
「だから、常に武力を誇示する必要があるのだ。歯向かえばこうなると威嚇し続けないといけない。たとえ疲れ果てていても。タッカー。非情であれ。君がこの国のために志願してくれたのなら、これはどうしても乗り越えなくてはならない壁なのだ」
装置の中の一つ、いろいろな角度や気象条件などについて演算処理しているモニターには、「テュシアー島」と表示されていた。
これはおそらく弾道計算システムだろう。
スピーカーが会話を遮る。
「それではお待ちかね。この祭典の始まりを告げるときの声、連射型弾道ミサイル、メテオシャワー【流星群】を発射したいと思います」
恐らく、スピーカーに繋がっているマイクが音を拾ったのだろう。会場からこれだけの距離が離れているというのに、歓声が盛り上がる聞こえた。
上官がボタン装置を持ち上げるとそれを僕に握らせて、深く帽子を被った。スピーカーがはやし立てる。
「起立発車機部隊さん、よろしくお願いします‼」
どうやら、心が飢えているのは僕の両親だけではないらしい。誰だって不安や苦しい感情を解放されるために、短絡的で暴力的な手段を選ぼうとしてしまうのだ。それは力を得れば得るほど増長し、例えば手芸やスポーツなどで発散することがちっぽけに思えて叶わなくなり、最終的に誰かへの暴力にたどり着くのだ。それは人間の本能なのか、欠陥なのか。または、神が僕たちに仕組んだ自浄装置なのかはわからない。
昔のことを思い出した。
ダボダボのタンクトップを着て、明日世界が終わるかのような顔で、鉄塔から祭り会場を眺めていた僕のことだ。
その子が今、ボタンを握りしめる僕の前に現れて、指をむけている。
何かを言っているが、何を言っているかはわからなかったが、惨めな気持ちであることに変わりはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!