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しかしどうしても祭りに参加したかった僕は家の扉に細工をかけ、親が鍵を閉めたあとでこっそりと脱出し、会場を一望できる鉄塔へとたどり着いた。以上までが冒頭に至る。会場が視認できる距離と言っても人は米粒ほどの大きさで、逆に宴の場の誰かが鉄塔の上に座る人物を見つけたとしても、それが僕であることはわかる筈がない。
テュシアー島の暦の上で、6月と12月の1日は神聖な日とされていた。この日は必ず晴れると伝承にあり、実際に僕も雨が降った様を見たことはない。
そして、もう一つ。
この日は必ず、流星群が島の上空を通過するのだ。
チョコレートペーストの上に小麦粉をまぶしたような夜空は、地上の喧騒をその広大な領域に吸い込んで無音にろ過しているかのようで、夏前の気候だというのにとても涼やかに感じた。
一方、地上で行われている、島中の騒音を一点に収束させた会場は神を祀るというよりは神の名を借りて自分たちが祀られたいかのようであった。
神に対し、人々の営みを大々的に届けることでこんにちの島の繁栄が守られていることを示すことも宴の開催意義であると教えられたが、その意図自体は自体はずっと昔に形骸化していて、ただ盛り上がるための大義名分を得ているようにしか僕は見えない。
自分がさも島の人間よりも一つだけ神聖な存在になったつもりで、ため息をひとつはいた。
青白い流星がひとつ上空を刺して、短いような、それでいて果てしないような直線運動の果てに山の稜線に消えていった。
同じく会場の誰かが気がついたのだろう。楽器の音も消えて、一様に場は静まり返る。かがり火のパチパチと木を焼く音が僕の耳にまで届きそうであった。
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