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夕立の降る夏の日、亜美は大学を休み、父の遺品を整理していた。大柄で豪快だった父は病気や怪我など無縁だったが、長い間煙草を吸ってたので肺を悪くし入院。頑固で意地っ張りな父は、家族や医者の「煙草をやめろ」という忠告を聞かず、ついぞやめないまま亡くなってしまったのだ。
全く、困った父親だ。
そう亜美が呆れつつ押し入れを漁っていると、中から「宝物」と汚い字で書かれた小さめの段ボール箱が出てきた。
亜美は、こういう時は子供の頃の思い出か、家族への愛が入っているのだ、と思い、気になったので箱を開けてみることにした。
しかし中から出てきたのは、そのどちらでもなく、
少し錆び付いた大きなベルトと小さな長方形の物体だった。
亜美はふと、日曜の朝にやっている特撮に出てくる変身ベルトのようだと思った。父は何故こんなものを宝物と書いて大事にしまってあったのだろうか。
休日は遅めに起きてきていた父の事だから、日曜の朝からテレビを見ていてファンだったとは考えにくい。自分には本当は兄がいてその子の物だったのでは、とも考えたが、そんな話は聞いてないし、母親に尋ねても兄はいないと言う。
ならばこれは何なのだ。
そう思っていると、窓がガラガラピシャァッと音を立てて開き、謎の化け物が入ってきた。
「ゲハハハハハハハ!仮面ライダーミアレー!今日こそ決着をつけてやる‼︎この世界は俺のものだァ‼︎‼︎」
と叫んだ。
本当だったら腰を抜かして驚く所だったが、何故か少しも怖くなく、亜美は妙に冷静になり、
「父の知り合いですか」
と尋ねてしまった。
化け物は「ア?」と怪訝そうに首を傾げると、舌(のような桃色のもの)舐めずりし、
「娘か、丁度いい人質になってもらおう。ミアレーを誘き出す餌としてな!」
と言い、再びゲハハハハハハハッと笑った。
ミアレーの娘、つまりミアレーは自分の父親?この化け物は、私の父親が仮面ライダーだと言うのか。
などと考えていると、化け物は
「ア?妙に落ち着いた娘だな、もっと怖がれよ、お父ちゃん呼ばねえとお前を食っちまうぞ!」
と脅した。
しかし、亜美が
「父は、先月末死にました」
と言うと、化け物はポカンとした顔をした。
「は?ミアレーが?死んだ?」
「はい、肺癌で。病院でポックリと」
その話を聞いた化け物はしばらく「誰だミアレーが退院したとかガセ流したやつは…」とかぶつぶつ呟きながら、腕を組んで考え込んだ。そして亜美に尋ねた。
「死んだって、そりゃいつ治るんだ」
「は?死んじゃったんで、父はもう帰ってこないですよ」
そう亜美がバッサリ言うと、化け物はあんぐりと口(であろう顔にある穴)を開け、がっくりと項垂れた。
「何だよあいつ、勝ち逃げかよ。チクショウ、お前がいないとつまらねぇじゃねぇかよぉ」
と情けない声を出しながら、化け物はしょんぼりと帰っていった。
何だったんだ、父の知り合いはジョークが上手い人だ。と亜美は思った。
手元のベルトは「ジョークじゃねぇぞ」と言わんばかりにキラリと光った。
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