一章 三度の飯より甘い妄想!

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一章 三度の飯より甘い妄想!

 〜先生、あたしだけを見てください〜   先生のバーカ!   窓辺にもたれて、時折、吹いてくる風に髪を遊ばせる。唇を尖らせながら、運動部員たちに占拠されて活気づいているグラウンドに視線を注いでいたら―― 「なに。サッカー部にそんなに良い男がいるわけ」  ――背後から、あっさり先生の腕の中に捕獲されてしまった。    学園中の女の子たちから憧れられている先生が、誰に見つかるかも分からないこんな場所で大胆に。  つい数秒前までむくれていたけど、こうなると急激に焦る。 「せ、せんせ! 誰かに見つかっちゃったら、どーするのっ」 「まぁ、間違いなく俺のクビが飛ぶだろうな」 「っっ〜〜! ぜんぜん笑えないんだけど!」 「あ、耳まで真っ赤になってる。ホントにかわいいなぁ」  こういう時の先生はものすごく意地悪だ。 「あたしはっ……先生のこと、本気で心配してるのにっ」 「うん、分かってるよ。でも、もうちょっとだけ」  大きな手で頭をやさしく撫でられて、結局、先生の言いなりになってしまう。ちょろいなぁという自覚はあるけれど逆らえない。  先生に抱きしめられると、あらゆる感情が火花みたいに弾け飛んで、身体中が熱くなる。ここが教室だということさえもだんだん抜け落ちていき、あたしにとっての世界は、あっというまに先生だけになる。   「なぁ、葉月。なんかあった?」  はっ……! ちがう、ちがうよ、ほだされてる場合じゃない!  今日は待ちに待ったバレンタインデーだったから、本当は誰よりも早くあたしが先生にチョコレートを渡す約束だったのに。人気者の先生は休み時間になるたびに女の子たちに囲まれて忙しそうで、近づく隙なんて全くなかった。 『じゃあ、バレンタインデーはあたしが一番に先生にチョコレートをあげますね!』  先生にとっては、あんな約束どうでもよかったんだ。  ……あたしは、すごく楽しみにしていたけど。 「……なんでもない」 「絶対ウソ。まだ拗ねた顔してるし」  バレてるし……まぁ、先生にはすっかりお見通しか。  もういいや。この際だからモヤモヤしてたことも全部聞いちゃえ! 「先生、さっきまで岬さんに呼び出されてたよね」 「ああ。しつこかったから」 「岬さんって、すごく可愛いよね」 「そうか?」 「そうだよっ」 「へー。葉月はああいう子が好みなんだ」 「いや、そういうことじゃなくて……」  岬さんは、学園でも有名な可愛い女の子だ。あたしの好みだとかいう個人的な話ではなく、十人いたら九人が美少女だと認めるだろう。そして、あの子はきっと先生に興味を抱いている。そんな気がしてならない、あたしの中の女の勘がそう囁いている。 「みんながどうとかは知らないけど、俺にとっては、葉月が一番かわい―― * 「詩葉(うたは)~! 夕ご飯ができたわよー!」    カタカタカタカタカタカタカタカタ――――えっ?  うそうそっ! もう、そんな時間⁉︎
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