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島を加護する力を蓄えるため生贄を食べる女神が、生贄を食べないということが何を意味するのか。それを知って動揺を隠せず慌てふためく。
『ホエエ、ホエエ~』
『やはりだめでしょうか。夏バテで食欲がないと言えば巫女を誤魔化せないですかね……』
『ホエッホエッ』
『夏はこれからなのにいまから夏バテは無理があると。確かに……。では、ダイエット中だから食べたくないでは』
『ホエエ~』
『女神はいまのままが美しいと? 照れますね、ふふ……ではなくて。それでは、お腹が痛いから食べられないとか』
『ホエェー、ホエェッ』
『うぅ、仮病は巫女を心配させるからダメ。正論ですね。では、どういう理由ならば避けられるでしょうか?』
『ホエエ、ホエ?』
『理由を考えている場合ではなく何故生贄を食べたくないか? ですか? ううぅ……そうですね』
理由を問われてナルノアは答えを言い淀んでいたが、ぽつりと言った。
『女神は生贄を受け入れることが、いままでになく不安なのです……』
『ホエ……』
いままで続けられてきた風習に対して、ナルノアが弱音を吐いたことに、メネフたちは若干の戸惑いを隠せないものの心配そうに女神に寄り添う。
いつの間にか作業を続けていたメネフたち全員が、ナルノアの様子に気づいて周りを取り囲むようにして集合していた。
一体、女神の心境に何があったのか。当人はメネフたちの中心で顔も上げられずに俯いてばかりいる。
『今夏に捧げられる生贄のことは以前に聞いています。あの嵐によって海を流れてきた子どもだと』
数カ月前――島の外では季節が移り替わる頃。大きな嵐が海の上で生まれたことは、嵐の猛威がこの島にまで届いていたことで知っていた。その後日に、一人の子どもが海に流されていたところをメネフが拾ったことも。
それはこの島に住む者たちも周知のことだ。
ただ唯一、ナルノアだけが知っていたある事が、不安の種だった。
『あの嵐は海の怒りから生まれたものでした。ただその怒りの原因は女神には分かりません。だからこそ、あの嵐と今回の生贄の子が無関係だとは思えないのです』
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