1.二股の人魚

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「足を開け。……ああ、脚びれだったか?」  でっぷりした腹を揺らし、首飾りや腕時計を着けた中年の男が近づいてくる。 『いやだ!』  セラは人魚の言語で反抗した。  藁を薄く敷き詰めただけの、苔むした石牢内に同族はいない。鳴いたのは反抗の意思表示だ。二股に分かれた脚びれの先にある、扇のように薄いヒレをパタパタと揺らす。 『それ以上近づいたら、噛みついてやる!』  口を大きく開け、上下に並んだ尖った歯を見せ、警戒音を発する。 『この首輪を外して、俺を海に帰してくれ』  首輪から伸びた鎖がジャラジャラと鳴る。腕は、万歳という格好で壁にある手枷に繋がれている。セラが自由に動かせる部分は顔と脚びれくらいだった。 「そう威嚇するな。一番の高値を付けてやったご主人様に対する態度がそれか?」  一瞬動きを止めたものの、それ以上セラが動けないと見ると、ニヤニヤと笑いながら詰め寄ってきた。  酒くさく、今し方食べた食事のせいか、顔中が脂ぎっていて気持ち悪い。 「雄とはいえ、人魚は異種族の中でもとびきりあそこの具合がいいらしいからな。オークションで出品されるとは思わなかった」 「人魚は警戒心が強いのに、よく捕まえられましたね」  向こうから、腕っぷしの強そうな大男がやってきた。 「ああ。魚を追っていたのか、浅瀬で泳いでいたところを網で捕獲したらしい。捕らえたものの、ひどく抵抗するから、鋏で髪を切って脅したり、しまいには殴ったりしたそうだ」 「それで鼻血が出てるんですかい。綺麗な顔なのにもったいない……」ae2cd6a9-806c-4b7b-9e43-f781acc5a9aa 「拭いてやろうとすると、尖った歯を見せて噛もうとするから仕方ないだろう。さて、どこに突っ込めばいいんだ? おいミック、脚を押さえろ」  ミックと呼ばれた男が大きな体を無理矢理牢に入れると、セラの脚びれを左右に開いた。 『……っ! やめろ!』  同族にしか分からない言葉で叫ぶ。セラはこいつらのいうことが分かるが、意思疎通を図れると分かると、無理難題をふっかけられるのは目に見えている。今だって言葉が通じないのに、秘された場所を暴こうとしているではないか。 「なんだ? 脚のあいだに、女みたいな割れ目がありやすぜ」 「ふん、開けてみろ」  中年男が顎をしゃくる。 『いやだ、そこは……!』  高い悲鳴を上げるが、大男は表情も変えずに節くれ立った指でスリットを開いた。  セラが雄である証拠のペニスがぷるんと顔を出す。乱暴される恐怖に、ピンク色のそれは小さく縮こまっている。 「ここではないのか。挿入(いれ)るのは無理そうだな。そもそも、人魚がどうやって繁殖しているのかも分かっていない。……無謀だったか」  中年男が残念そうにつぶやいたので、セラは胸をなで下ろした。  もし、言葉が分かっていると知られたら、生殖の秘密を言うまで乱暴されただろう。  あきらめてくれたのかもしれない、と思ったとき、股間をじっと見つめていた男が口を開いた。 「待って下さい、旦那様。割れ目の下に、もう一つ孔があります。ここに挿れるんじゃないでしょうか?」  ほら、と太い指を差し込まれ、痛みが走る。セラは声を出すのも忘れ、体を捩った。
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