第54章 阿鼻叫喚

8/20
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/621ページ
がさがさとした肌触りの固い物体だ。 さすがの三郎兄上も、愛撫の手を止める。 「サブロー! どうしたの? へんな音がしたね」 異常を感じた獅子虎が、顔を三郎兄上の方に向けて尋ねる。 「うん、なにか大きなものが落ちてきた。 ちょっと待ちなさい」 三郎兄上が起き上がると、またどたんという、重いものが床に落下する音。 後ろを振り向くと、子供の身長ほどもある背の高い壺が倒れていた。 壺には精巧な文様が一面に彫られている。 壺の下部には村の生活をかたどったような人間の文様が、細く浅い線で一面に描かれている。 男性も女性も幾何学文様で構成されている。 例えば人間の手足は楕円で、顔は丸。 男性の胴体は四角、女性の胴体は逆三角。 女性の乳房は二つの丸だ。 壺の上部は精密な渦巻文様で埋め尽くされている。 その精密さは類をみないものだ。 じっと見ていると渦巻に引きずり込まれていきそうだった。 壺を覗くと、中にはでっぷりと太った白い蛇がとぐろを巻いていた。 赤い目を輝かせ、ちろちろと舌を出している。 「大きな白蛇だ。 この壺で飼っていたのだろうな」
/621ページ

最初のコメントを投稿しよう!