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第一章 別れた女房
1・
それは、去年の事。
春らんまんの昼下がりだった!
桜散る季節には、相応しからぬ出逢い。つれない別れかたをした男と女が再び出逢い、バチバチと火花を散らす。
昨今、目新しい事でもない。
そんな男と女が再会を果たしたのは。都内でも人気のシティホテル・ダイアモンドパレスのティーラウンジだった。
レースのカーテンが揺れる大きな窓から、四月のうららかな陽射しが燦燦と降りそそぐ眩しくも平和な午後のことである。
そこは当世流行りのビクトリア朝の内装がたいそう評判のティーラウンジ・『プリンス*エドワード』。
お洒落な奥様方の間では、午後のお茶はココと決まっている。
本物のウェッジウッドのティーセットで供される英国風の紅茶と。体重が跳ね上がること請け合いの、二段のケーキサーバーに盛られた色とりどりのケーキやサンドイッチが、奥様方には特に人気が高い。
英国のお貴族様気分が味わえると、テレビのニュースにも取り上げられた評判のティーラウンジである。その代わり、お値段も飛び切り。
それでもひと時の夢の代償としては、まぁまぁの値段だろう。だから平日の午後は、着飾った御婦人方で満席。いつも予約が必要だった。
そんな『プリンス*エドワード』の店内でも超人気の場所。レースのカーテンが揺れる窓際の席に座っているのは、その優雅な午後の揺蕩うような時間を過ごすにはひどく不釣合いな二人だった。
どこから見ても粋筋の、小股が切れ上がった美味しそうな女と。片や不愛想を絵にかいたような仏頂面の男が、向き合って座っている。
「アタシ、ここの昼下がりが大好きなの」
女が柔らかな声で、ウフッと微笑む。
薄い翡翠色の地に、色鮮やかなピンクの枝垂桜が描かれた粋な着物がよく似合う。薬指には大粒のダイアモンドがこれ見よがしに燦然と輝いて。
派手ないで立ちの女だ。
向かい合う席の花崗岩を思わせるご面相の男が、厳つい顔をこわばらせた。
ゆったりと寛いだ風情の女は、微笑みを浮べ。口元に香り高いミルクティーを運ぶ。
「居心地の悪い店だな」、男が呟いた。
「お前にそっくりだぜッ」
女を睨みつけ、低い声を叩きつける。
男が着ているのは。一目で吊るしの安物と分かるくたびれたグレイの背広だ。ありきたりの紺と空色のストライプ柄のネクタイには、所々に染みまでついている。
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