最終審査

1/3
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

最終審査

坂崎は遅刻による大きな失点からのスタートを覚悟していた。むしろ、面接室に通してもらえないものと思っていたくらいだ。 部屋には三人の面接官がいた。その不利な立場のせいだろうか、着席するやいなや唐突に話しかけられた。 「最終審査は不要です。ただ、一つだけお尋ねしたいことがあります」 坂崎は身をこわばらせた。最終審査が必要ないという時点で良い意味であるはずがない。 「どうして審査の時間に遅れたのでしょうか」 坂崎はその質問を自分に対する戒めだと捉えた。しかし、失格だとしても最後に抱いた疑問を確かめる機会を与えられたのは幸いだった。 坂崎は伺うように、慎重に口を開く。 「……あのモニターに表示された文章が気になりました。急いで時間に間に合わせないといけないと思ったのですが、違和感があったので、もう一度読み直してみました。 そうしましたら、『会場はここから、300メートル離れた場所にある有日ビルの10階、になります』と書かれていました」 「ほう、別段、迷わない道だと思うのですが」 まるで意図をはぐらかすような面接官の言い方に、坂崎はもしかしたら自分の推測は正しいのかもしれない、と思った。 「いえ、普通なら、『会場はここから300メートル離れた場所にある、有日ビルの10階になります』と書きますよね。読点の位置が不自然でした」 揃いも揃って面接官の目が大きく見開かれた。その表情の変化に坂崎は確信した。この審査が問うている本質の輪郭が、次第に明瞭になってくる。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!