第9章 悪い魔女の正体

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 いつもの居酒屋ではなく、オシャレなイタリアンレストランで男女向い合せに並んで座ったところで北川が口を開いた。 「三浦さん、今日はどうもありがとう。時任がどうしても三浦さんに直接謝りたいって言うからセッティングさせてもらったんだ。一人じゃ不安だろうから、お友達にも来てもらって、こっちも人数合わせたんだけど、よかったかな」  正面に座る彼女に、北川はにこやかに語りかけた。  なんだと!?俺がいつ「謝りたい」と言った?  そう言いそうになって、森田に足を蹴られた。  いてっ、そうだった!ただ頷くだけだったな。  コクコクと三浦さんに向かって頷いた。  あの子の名前が三浦さんだってことも、今初めて知ったけどな! 「わたしも、時任さんに申し訳なかったと思ってずっと気になっていたんです。だから、今日は誘っていただいてありがとうございます」  そう言ってペコリと頭を下げる三浦さんは、幼さの残るカワイイ系女子だ。自分が妙な感電体質でなければ絶対に交際をOKしていただろうなぁ、などと考えてしまった。 「じゃあとりあえず、楽しく食事しようか!」となって、雑談しながらの会食が始まったのだが、北川と森田が女子たちに酒をすすめるペースがなんだか早い気が少ししていた。  甲斐甲斐しく三浦さんにサラダを取り分けてあげている北川に、三浦さんの隣に座っている子が声をかけた。 「こないだの土曜日に、わたし偶然北川さんお見掛けしましたよ。東松公園で。一緒に歩いていた可愛い人はカノジョさんですか?」 「え、偶然だね。あの日は休日出勤した帰りに彼女の仕事が終わるのを待って会ってたんだ。付き合ってはいないよ、残念ながらもう2回もフラれてるんだよね」 「えぇっ!北川さんを振る女性がいるんですか?しかも2回も」  女子たちがどよめている。  うん、俺も驚いた。 「そういう君は、あの公園で何してたの?」 「あはっ、実は私もカレとデートしてました」   北川は上手く話題をそらしながら、また三浦さんにワインをすすめた。  ほどなくして、アルコールで女子たちの舌がずいぶんとなめらかになってきたところで、一番端に座る子が言った。 「三浦さんね、自分のせいで二人も島流しにしちゃったって気にしてて、周りにもそのことを言う人がいて可哀そうだったんです。だから時任さん、気にしてないよって彼女に言ってあげてくださいね」  二人って?と思いながら、コクコク頷いて三浦さんに向かって「うん、全く気にしてません。こちらこそ、ほんとゴメンね」と言った。 「あーよかった」  三浦さんがホッとしたように笑った。 「わたし、小野さんとは接点がなかったしタイミングも悪くて謝れないままになっていて…時任さんは疑いも晴れて本当によかったですぅ」  あきら!?と内心驚いているところへ、北川が静かに三浦さんに聞いた。 「小野さんって?」  森田は、三浦さん以外の女子二人に向かって、別の話題をふっているところだった。   俺はどっちの会話に参加していいかわからず、キョロキョロしながらただコクコクと頷き続けていた。 「あの…これ言っちゃってもいいのかな…」  三浦さんが小声でつぶやきながら言い淀んでいる。  それを北川がやさしくフォローした。 「いいんじゃない?もう2年半も経ってるし、小野さんはもう退職したから時効じゃないかな。胸につっかえていることがあるなら、話聞くよ?」  すると彼女の顔はパッと明るくなり、まるで堰を切ったかのように衝撃的な真実を語り始めたのだった――。
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