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この時、咸陽での不穏な空気を感じていた田文は秦の丞相の職を辞して斉に帰る途中だった。
今自分は死ぬ時ではない、との考えた上での脱出劇に魏冉の言葉が更に上乗せされた。
「わかりました。貴方の好意に甘えましょう。
しかしこの約束、履行してしまうと秦はかなり弱体化してしまう。本当によろしいか?」
それに対して魏冉はなんの躊躇いもなく答えた。
「趙の属国になるよりはマシです。
国の面積が減ろうとも公孫鞅様のおかげで強兵が減ることはない。
私はそう信じております」
「大胆なお方だ。私なんかよりよほど大きい」
「貴方とは才能の質が違います。
私は個人の能力でなら貴方より大きい。
しかし、貴方の気概の大きさは中華全土を囲う。だから主父に疎んじられる」
魏冉は平然と言い切った。
「しかし、そんなに賭けのようなことをしなくても貴方ならいずれ丞相になれるでしょう。なにやら急いでいるように思えますが?」
「私の部下に"中華一の将軍になりたい"という奴がいましてね。私はそいつの才能と気質に可能性を感じました。
だから私の今の野望はそいつを中華一の将軍にさせる事です。それだと早いうちに丞相になっておかないと色々間に合わない」
「それはつまり…」
「貴方の考えとは違う道をいくことになるでしょう」
「そしてそれを阻止しなけばならない立場になるやもしれませんぞ」
「もちろん覚悟の上です。
その時はお互い遠慮なく」
魏冉はぐっと力強く拝手した。
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