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よく晴れた、暑い夏の日のこと。
人通りの少ないバス停で、母と子がバスを待っていた。
「駿、帽子をかぶりなさい。熱中症になるわよ」
「わかってるよ。でも、頭が暑いんだもん」
駿は小学二年生。二回目の夏休みの真っ最中だ。
去年――つまり一回目の夏休みでは、あろうことかお盆前に夏カゼをこじらせ、二学期が始まるまで本調子ではなかった。食欲はないし、おなかはゆるいし、暑いのにクーラーにあたると頭がいたくなる。おかげでプールには一度しかつれて行ってもらえなかったし、おじいちゃん家行きの予定もキャンセルされてしまった。
だから今年こそは、最初から最後まで、百パーセント夏休みを楽しみつくしたいのだ。
くしゃくしゃのタオルハンカチで頭をふいてから、駿は麦わら帽子をかぶった。
どちらを向いてもセミの声がする。上を向くとカンカン照りの太陽が目に入りそうになり、あわてて手で顔をおおった。セミの声が太陽の音みたいだ。
それに暑い、暑すぎる。バス停に屋根はあるけれど、影はだいぶ遠くにあるから意味がない。ただじっと立っているだけでも、背中や胸を汗が流れ落ちていく。
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