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道半ば
「ん? あ……あれ?」
何かを落っことした気がして、俺は立ち止まった。
手の中を見ても、ポケットをまさぐっても、見つからない。地面を見渡してもそれらしいものは見当たらない。
それでも、何かを落っことした事は確かなのだ。
不思議に思いながら歩き出そうとして……ぶつかった。何も無い所にぶつかった。
透明な壁、そんなイメージ。
道半ば。この道はまだ先へと続いているのだから進まないといけないのだが、如何せんこの壁が邪魔過ぎる。
「おっさん、どいて」
そんな声が後ろから聞こえてきて俺は道を開けた。振り返ると、まだ十代だろう少年が立っている。
「つーか、何してんだ? あんた」
「いや、その、何かを落っことしたんだよ。そしたら前に進めなくなっちまった」
「は? 何かって何だよ? 何落っことしたかもわかんねーのかよ」
馬鹿にするように笑われる。さもありなん。
「落したのがわかんなきゃどうにも……おい、おっさん。まさか、これを落としたんじゃねーよな?」
慌てて少年がポケットから取り出したのは、形の定まってないモヤモヤした何かだった。
「あ、それだ。落したのはそうゆう物だった気がする。」
見せてくれた物よりはっきりした形だと思うが、確かにそんな雰囲気だった……多分。
「おいおいおい、落すようなものか? これ。頼むぜおっさん」
勘弁してくれと、その少年は大げさに嘆いてみせた。
「落したんじゃなくて、自分で捨てたんじゃね?」
「んな訳あるか! そんな大事な物を捨てたりするもんかよ」
それが何なのかは思い出せないが、それでも、この心の空虚さは今まで味わった事の無いような、薄ら寒いものだった。自分からこんな気分を味わおうとは思わないのだが。
「別に珍しくないぜ、自分から捨てちまう奴なんて。俺の知り合いにだって先生や親に言われて捨てた奴もいるし、社員証と引き替えに投げた奴もいるし」
スマホをすりすりしながら、興味なさげに語る。
そうゆうものだろうか。
「そいつらが言うには、完全に無くなってからその大事さに気づくんだと」
「そうなのか?」
「そうなんじゃねーの? 実際おっさんだって無くなってから気が付いたんだろ?」
言われてみればそうだった。
おっさんに構ってるほど暇じゃねーの。そんな台詞を置いて、少年は立ち去って行った。
前には進めず、かといって引き返す気にもなれず、結局座る事にする。
「ん?」
後ろポケットに何か入っていた。さっきは気が付かなかったな、と不思議に思いながら引っ張り出してみると、出てきたのはボールペンだった。何の変哲も無いボールペン。
書く物はあっても、紙がない。ボールペンを指先でくるくる回しながら、ぼんやりと人の流れを眺めていた。
目の前を色んな人が通っていく。それこそ老若男女、中にはハイハイしている赤子もいた。
皆、モヤモヤした物を持って歩いて行く。形は様々、色も色々。驚いた事に赤子が持ってる、というか転がしている物が一番大きかった。
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