「幸せになれよ」なんて言わないで

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「幸せになれよ」なんて言わないで

「見合いをした男に気に入られてさ。親もひどく乗り気だから、多分、このまま結婚することになりそう」 あっさりと告げた俺に、修一は刹那、激しい動揺を閃かせたが、すぐに強張った笑みを浮かべた。 「そ、か。……おめでとう、でいいのかな?」 「……うん、まぁ。ちゃんと、俺も納得してるし」 「なっとく、かぁ」 困ったものだ、というような顔で修一が眉を下げた。 「おばさんに聞いたよ。……運命の番なんだって?」 「……さぁな。別に、会った瞬間に愛情なんか湧かなかったけど?」 修一に余計なことを話した母への怒りを堪えながら素っ気なく返せば、修一は肩を竦める。 「運命の番のフェロモンを感じて、欲しくなったんじゃないの?その人のこと」 「別に。……俺は人間なんだから、そんな発情期の獣みたいにはならない」 吐き捨てるように言えば、修一は息を呑んで、小さく「ごめん」と呟いた。 俺が『本能に支配されるオメガ』という性を嫌悪していると、思い出したのだろう。 「……なんにせよ、婚約することになっちゃったから、お前と二人で出掛けたり、とか、……会ったりとか、出来なくなる」 地面に視線を落としたまま、途切れ途切れに呟く俺の言葉に、修一は呼吸を止め、そしてゆっくりと深呼吸をした。 まるで、動揺を抑え込むように。 もう、ヒートになっても手を伸ばす……伸ばせる相手が修一ではなくなるということを、察したのだろう。 僅かの、けれど重力が数十倍に膨らんだかのような重い沈黙の後。 修一は、ふ、と小さく笑った。 「俺は元々、そのつもりだった、し」 努めて『普段通り』を装った声が、頭の上で響く。 俯いた頭のてっぺんを、そっと温かな掌が撫でた。 「俺は、さ。いつか現れる、お前の『番』の代わりになりたかっただけだ。それまでの役目だって、分かってたから」 その言葉に込められた愛情の深さに、涙を堪えて顔をあげれば、修一は目を細めて俺を見つめていた。 「幸せになれよ」 痛みを堪えるような優しい顔で囁いて、修一は俺の額に口づけた。
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