第十三章 約束の六人 ――法王驢馬と牛坊主――

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 そうしてたった一つの深呼吸で、瞬時に息を整えたルミ。  紅茶色の瞳に強い光を宿し、祭文を詠唱し始めた。 「“デウス・カリタース・エスト・スクリプト―ル”……」  ……何度も聞いた祭文。  使い手次第で、毒にも薬にもなる癒しの“慈愛の手(マーノ・カリタース)だ”。  今のルミなら、きっと……!  ルミの体から立ち昇る清廉な光におれが確信したその瞬間、地面がびりびりと小刻みに揺れ始めた。  ――ぬああああっ!!――  怒りと憎しみ、それに呪いに満ち満ちた叫びが、この空間を揺るがす。  我に還った法王驢馬(バプスト・エーゼル)だ。  白い柱体をびきびきと震わせ、あらん限りの力で咆哮する。  風穴のように口を開いた石の顔は、憤激の朱色と怨恨の墨色に染め分けられ、黄昏の角笛を思わせる絶叫を吐く。  と、その見上げるばかりの巨柱の底から、鉄球が地面を撃ち据えるような大音響が轟いた。   ――ずずうん……――  腸(はらわた)を震わす鈍重な地鳴りとともに地面がぐらりと大きく揺れ、おれの足が宙へ撥ね上がる。  祭文を邪魔されたルミの膝も、瀕死のマリ姉の体も……!
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