優しい君

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優しい君

 優しい世界に置き忘れた思い出  褪せた写真に写る君の笑顔  ずっと忘れていた  忘れようとしていた  でも、忘れられなかった  そんな週末の夕日を見つけたぼくは  背中を向けて歩いたあの道を思い出していた  少しだけ冷たかった君の手を握り  少しだけ眩しかった夕日を背負い  少しだけ若かったぼく達の、あの頃  何もかもが綺麗で、優しく見えたあの頃  不安なんて何もなかった  過信していたのかもしれない  ぼく達は幸せだと  世界はきっと優しいのだと  だけど、優しいからこそ  ぼく達は終わったんだ  優しいからこそ  相手を好きだったからこそ  ぼく達は相手を傷つけまいとしていた  でも、優しさが暴力だったなんて知らなかったんだ  だから――――  終わったんだ。  苦い思い出。  タバコみたいだ。  目に沁みる、ほろ苦い・・・・  ちょっとだけ涙が零れてしまった。  でも、ぼくの口元は小さな笑みを抱えていた。  「――――大丈夫?」  寒い中、ベランダへ足を伸ばした妻の、  そんな優しい一言が  その時のぼくには、とても心苦しかった。 (完)
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