762人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
毎日朝から晩まで働き、仕事が終わらなければ厳しい折檻が待っていた。咲真がこの屋敷に住むことがよほど気にくわないのか、神田家の人間は咲真に辛く当たった。身寄りのないお前を食わせてやってることをありがたく思えと詰った。
そんな中でも希望を捨てずにやってこれたのは村の守り神、狼神の存在だった。狼神様の恩恵があるからこそ、村に不作はなく、山賊や獣に襲われることもなく、こんな自分でも生きて来れた。
村の誰からも必要とされない咲真を、狼神様だけが守ってくれているような気がしていたのだ。
狼神様の元へ行くことが、自分の人生が変わる最後のチャンスかもしれなかった。
「誠心誠意、狼神様にお仕えして参ります」
「よろしい。では輿の準備を、夜が明ける前に向かわねば」
そう言って、部屋から出ていく村長に連なって女たちが支度にばたばたと動き出す。
誰もいなくなった息をつくと、部屋に咲真と同い年くらいの若い男が入ってきた。
「――吾郎様」
咲真は吾郎と呼んだ男、神田吾郎の姿が見えるなり平伏した。
すぐにこうしなければひどい仕打ちを受けるからだ。
最初のコメントを投稿しよう!