嘘つき、嘘に溺れる

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 この写真を撮ったのは、梨子がどうしても、絶対、と言ったから。梨子はいつも、俺や秀がいがみ合うのをたしなめていたけど、あれほど強く言うのは珍しかった。 ――いいでしょ、たまには! 年上の言うことは聞くものよ! 秀、姉ちゃんのいうことが聞けないの? 空、恋人の頼みなのよ?  一体なんだ、と思ったから、写真の中の俺は不機嫌な顔をしている。秀も目線がおかしい。ただ、梨子だけ、俺と秀の腕を掴んで、満面の笑顔。  この写真は、一枚しかない。梨子がいなくなる前に、秀と俺がデジカメのデータを消したのだ。梨子は軽く怒ったけど、俺と秀はお互いが一緒に写っている写真があるというのが気持ち悪かった。  少し、後悔している。  と言っても、この写真を持ち去ることはできないだろう、さすがに。だけど、秀も独り占めにすることなくここに保管しているから、まあいいか。  椅子に座って、写真を眺める。嘘みたいだ、梨子がもういない、なんて。二年経つのに。もう二年だ。まだ二年、と思ってもいいんだろうか。  ……少し、ぼんやりしていた。背後でドアの開く音がしたけれど、俺は振り向かなかった。 「……空」  掠れた声だった。俺は返事をしない。
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