俺の姫

8/8
264人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
「実際に会って確信した。俺が待っていたのはサーヤだったんだって」 「マリスさん、私、そんな存在では……」 「サーヤが気づいていないだけだよ」 俯く沙彩の顎を摑むと、上を向かせる。 穏やかに微笑むエメラルドグリーンの瞳は、光の下で見ると黄色を帯びている事に気づく。 「でもすぐに気づかせてみせる。サーヤは俺にとって、幸せを運んでくる幸運の女神だからね」 「幸運……」 その言葉で、沙彩は昼間に占い師から言われた言葉を思い出す。 『今日、これから出会う男性を信じてついて行きなさい。それが、アンタを幸運へと導く』 (あれって、マリスさんのことなのかな……) あの時はその言葉が信用出来なかった。 けれども、異世界に来てしまった今ならわかる。 この世界で出会った男性ーーマリス、を信じてついていけば、幸せになれるのだろうか。 マリスが沙彩を「運命の女性」と言うように、沙彩を「幸運に導く男性」もマリスなのだろうか。 「サーヤ?」 マリスは顎から手を離すと、心配そうに見つめてくる。 「今日はもう疲れちゃったかな? 俺も風呂に入ってくるから、サーヤも休んで」 「そうですね」 風呂に入ったからか、今日一日の疲れがどっと出てきたようだった。 「お言葉に甘えて、部屋に戻って休みます」 「うん。おやすみ、サーヤ」 「おやすみなさい」 マリスの部屋を出て、自分の部屋のベットに倒れると、気が抜けたのか急激に身体が重くなる。 (そう言えば、結局、マリスさんって何者なんだろう) 昼間に会った騎士団は敬意を払っていたし、宿で一番良い部屋をとってくれた。 更には、「五歳の時に占われてから、何度も同じ結果だった」と話していた。 五歳以降の占いは、お金がかかると言っていた。それをやっていたと言うことは、余程、お金に余裕がある者だろう。 富豪とか、貴族とか。商家の可能性もあるかもしれない。 (まあ、いいや。もう疲れちゃった) ようやく一人になれたからか、疲れが出てきた。 元の世界から持って来た鞄に入れているスマートフォンを見ると、まだ二十一時を過ぎたばかりだった。 それでも、頭は重く、身体も重かった。 沙彩は明かりを消すと、ベッドの中に潜り込む。 目を瞑ると、すぐに眠気は襲ってくる。 (明日になったら、「使命」について考えよう) 元の世界に帰る為の「使命」も見つけないと。 そんな事を考えている間に、眠りについたのだった。 どれくらい眠っただろうか。 部屋の扉が空いたような気がして、目を覚ました。 足音を立てないようにしながら、ベッドに近づいて来る者がいた。 目を開けなければと思うのに、眠気と身体のだるさから瞼を開く事すら億劫だった。 「サーヤ」 小声で呼び掛けられる。すると、左耳に触れられた。 「この方法なら、君を守ってあげられる。でも……」 左耳に冷たいモノが当たる。それが何かを考える前に、それは自分の体温と混ざり合う。 相手はまだ何かを言っていたが、頭がはっきりしていないからか、それ以上は聞き取れなかった。 うとうとと、再び、沙彩は眠りの中に落ちていったのだった。 「好きだよ。サーヤ」 最後に、そんな声を聞いたような気がした。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!