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「実際に会って確信した。俺が待っていたのはサーヤだったんだって」
「マリスさん、私、そんな存在では……」
「サーヤが気づいていないだけだよ」
俯く沙彩の顎を摑むと、上を向かせる。
穏やかに微笑むエメラルドグリーンの瞳は、光の下で見ると黄色を帯びている事に気づく。
「でもすぐに気づかせてみせる。サーヤは俺にとって、幸せを運んでくる幸運の女神だからね」
「幸運……」
その言葉で、沙彩は昼間に占い師から言われた言葉を思い出す。
『今日、これから出会う男性を信じてついて行きなさい。それが、アンタを幸運へと導く』
(あれって、マリスさんのことなのかな……)
あの時はその言葉が信用出来なかった。
けれども、異世界に来てしまった今ならわかる。
この世界で出会った男性ーーマリス、を信じてついていけば、幸せになれるのだろうか。
マリスが沙彩を「運命の女性」と言うように、沙彩を「幸運に導く男性」もマリスなのだろうか。
「サーヤ?」
マリスは顎から手を離すと、心配そうに見つめてくる。
「今日はもう疲れちゃったかな? 俺も風呂に入ってくるから、サーヤも休んで」
「そうですね」
風呂に入ったからか、今日一日の疲れがどっと出てきたようだった。
「お言葉に甘えて、部屋に戻って休みます」
「うん。おやすみ、サーヤ」
「おやすみなさい」
マリスの部屋を出て、自分の部屋のベットに倒れると、気が抜けたのか急激に身体が重くなる。
(そう言えば、結局、マリスさんって何者なんだろう)
昼間に会った騎士団は敬意を払っていたし、宿で一番良い部屋をとってくれた。
更には、「五歳の時に占われてから、何度も同じ結果だった」と話していた。
五歳以降の占いは、お金がかかると言っていた。それをやっていたと言うことは、余程、お金に余裕がある者だろう。
富豪とか、貴族とか。商家の可能性もあるかもしれない。
(まあ、いいや。もう疲れちゃった)
ようやく一人になれたからか、疲れが出てきた。
元の世界から持って来た鞄に入れているスマートフォンを見ると、まだ二十一時を過ぎたばかりだった。
それでも、頭は重く、身体も重かった。
沙彩は明かりを消すと、ベッドの中に潜り込む。
目を瞑ると、すぐに眠気は襲ってくる。
(明日になったら、「使命」について考えよう)
元の世界に帰る為の「使命」も見つけないと。
そんな事を考えている間に、眠りについたのだった。
どれくらい眠っただろうか。
部屋の扉が空いたような気がして、目を覚ました。
足音を立てないようにしながら、ベッドに近づいて来る者がいた。
目を開けなければと思うのに、眠気と身体のだるさから瞼を開く事すら億劫だった。
「サーヤ」
小声で呼び掛けられる。すると、左耳に触れられた。
「この方法なら、君を守ってあげられる。でも……」
左耳に冷たいモノが当たる。それが何かを考える前に、それは自分の体温と混ざり合う。
相手はまだ何かを言っていたが、頭がはっきりしていないからか、それ以上は聞き取れなかった。
うとうとと、再び、沙彩は眠りの中に落ちていったのだった。
「好きだよ。サーヤ」
最後に、そんな声を聞いたような気がした。
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