占いと地震

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水晶玉に両手を翳して、ブツブツと何かを呟くと老婆は、やがて沙彩を見つめたのだった。 「アンタ、本当に珍しいね。こんな占い結果は、なかなか見ないよ」 「それで、どんな結果なんですか……?」 まさか、病気だろうか……。 沙彩が固唾を飲んで見守っていると、老婆はふと笑った。 「そんな酷いものじゃないよ。恋愛に関するものだよ」 「恋愛ですか!?」 ようやく、沙彩にも春がやってきたのだろうか。 これまで、仕事と趣味に全力を費やし気味だった沙彩は、一度も男性と付き合った事がなかった。 本やテレビの中で、あるいは身近な人から、恋人や結婚の話を聞くと羨ましい気持ちになった。 けれども、沙彩の周りには女性がほとんどであり、身近な男性も既婚者かふた回り以上、歳上の人しかいなかったのだった。 「そうさね。男性と出会う事になってる。それも今日」 「今日!?」 「けれども」と、老婆は眉をひそめる。 「男性と出会うけども、その代わりにアンタは大切なモノを失う事になる。……数え切れないくらいに」 「そんな……」 男性と引き換えに、何を失うのだろうか。知りたいような、知りたくないようなそんな気持ちになる。 「失いたくなければ、その男性についていかなければいい。その代わりに、恋する機会が失われるだけさ」 「どちらかしか選べないんですね……。じゃあ、その男性について行くと、大切なモノを失う代わりに、男性を得られると……?」 「ああ。そうさ。その男性はアンタを必ず幸せにする。結婚も、その先も、幸せな未来が待ってるよ」 すると、外から「ここだよ。よく当たると評判の占いの館」と女性の声が聞こえてきたのだった。 「この先生だっけ? よく当たると評判の」 「そうそう。この先生は……始めて見る名前かも」 沙彩は「そろそろ行かないと……」と、立ち上がりながら礼を述べる。 「ありがとうございました。参考になります」 「いいんだよ」と、老婆は笑みを浮かべる。 沙彩が立ち去りかけると、老婆は再度、告げる。 「今日、これから出会う男性を信じてついて行くんだよ。それが、アンタの運命を幸運へと導く」 「はい、ありがとうございます」 沙彩は一礼すると、入って来た女性数人と入れ違うように、占いの館から出たのだった。 (今日、これから出会う男性か……) 占いの館から出た沙彩は、エレベーターが止まるのを待っていた。 男性と言っても、世の中には多くの男性がいる。 道端ですれ違う男性も含めれば、多くの男性と出会う事になる。 (その中から、どうやって運命の男性を見つければいいんだろう) もしかしたら、占い師に嘘をつかれたのかもしれない。タダで占ってもらったのだ。適当を言った可能性もゼロではない。 そう考えていると、ようやくエレベーターが止まった。 沙彩はエレベーターに乗ると、階下のボタンを押したのだった。
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