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「異なる世界って、何も私じゃなくても……」
「でも、俺は君が運命の人だと思ってる」
はっきりと断言するマリスの言葉に、沙彩はハッと振り向く。
「言っただろう。この国には、異世界から人が多くやってくるって」
その話は、コルヒドレの森でも聞いていた。アマルフィアには異世界との入り口がいくつかあると。
「はい。その話は聞いています」
「これまで、俺が最初に占ってもらってからも、多くの異世界人がやって来た。でも、やって来たのは全員、男だったんだ」
異世界から女性が来ないということはない。
これまで、マリスが占ってもらうまでは、男女半々にこの国に現れた。
それなのに、何故かマリスが占ってもらってからは、男性しか来なくなったらしい。
「他の国に居るという可能性はないんですか? 他の国の異世界との入り口に現れたとか」
「それも考えて、騎士団に調べさせたし、俺自身も、他の国に現れたという異世界の女性と会ってみたけどね。なんて言えばいいんだろう。こう、ピンと来なかったんだ」
「ピンと……?」
ようやく、沙彩の髪を梳かし終わると、マリスは櫛を持って机に戻る。すると、今度は小さな瓶と、白い布を持って沙彩の左側に座ったのだった。
「これは、打ち身に良く効く軟膏なんだ。軟膏を塗ったところにこの布を巻くね」
「ありがとうございます。でも、自分で出来るので……」
沙彩は受け取ろうとするが、マリスは手を引っ込める。
「いいから、俺にやらせて」
「でも……」
「さっきのお詫び。気づかずに触っちゃったからね」
瓶の蓋を開けると、ツーンとした匂いがしてきた。
マリスは沙彩の左腕を捲ると、適量を取った軟膏を痣に塗ってくれたのだった。
「染みる?」
「いいえ。大丈夫です」
「良かった」
マリスは軟膏を塗った部分に布を巻きながら、「さっきの続きだけど」と話し出したのだった。
「これまで会った人達は、この人だって……俺が待っている人はこの人だって、思えなかったんだ。
何かが違うと思ってしまって。
でも、サーヤは違う。サーヤは一目会った時からわかったんだ。俺が探しているのは、この子だって」
「そんなこと、わかるわけ……」
沙彩が呟いた言葉に、マリスは苦笑する。
「無いよね。でも、俺はサーヤだと思ってる。初めて、ううん。今回は自分が迎えに行かなければと思った時から」
これまでは、異世界から人がやって来たと聞いても、騎士団に任せていた。
けれども、今回は自分が迎えに行かなければならないとマリスは思ったらしい。
そう思うと、マリスは取るものも取り敢えず、ジョセフィーヌを駆ると、報告のあったコルヒドレの森に向かった。
騎士団から遅れて森に向かう道を歩いていると、正面から慌てた様子で女性が走って来た。
それが、沙彩だった。
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