僕の転機

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僕の転機

2年A組。教室の最後尾の窓側に彼はいた。 友達と楽しそうに話している彼が僕には、まるで花のように眩しい。 ジャージの入った袋を抱える手に自然と力が入る。自分を虐めている主犯格である江藤(えとう)、赤茶髪の根本(ねもと)、黒髪パーマの橋下(はしもと)から花壇の整備中にホースで水をかけられていた自分に、手を差し伸べてくれた人がそこにいる。 「塩谷」と書かれたジャージ、保健室の利用者名簿を見て割と高頻度で書かれていた名前を当てにして辿り着いた教室。この人で間違いなかった。 「誰かに用事ですか?」 教室の外から中の様子を覗いていると、廊下側のすぐ近くの座席に座っていた女子生徒が話しかけてきた。 「いいえ……大丈夫です」 話しかけられることを予想をしていなかった葵は驚き、踵を返して逃げるように教室を後にした。かれこれ数分ほど話しかけるか否かで悩んでいたからか、これじゃあ怪しまれても可笑しくはない。 彼自身も体育の授業があるだろうし早く返すのが献名であるが、やはり大声を出して呼びつけることも、クラスの人達に呼んでもらうのも葵にとってハードルが高い。 教室を離れ、階段を登りながらも先程話しかけられた時がチャンスだったのに「塩谷くんを呼んでください」と言えなかったことに酷く後悔した。 結局返せずのジャージを胸に抱えたまま、 自分の行いに落ち込みながらも前を見ていなかったせいか、誰かに左肩がぶつかり、「すみません」と顔を上げたところで、葵は息を呑んだ。 「いてっ。チッ。大藪かよ」 謝った相手は舌打ちをし、自分を見るなり汚物を見るような目をしていた。江藤とその後ろに根元と橋下。葵はその三人を見た途端に全てが終わったと思った。
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