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「マナ、待ちに待っていた先生だろ。ちゃんと挨拶しろ」
いつのまにか、彼女の後ろにもうひとりの男性がいる。
「ほら」
あからさまに拗ねた顔をしている愛美の背を、長身の彼が押す。
「相良先生、……よろしくお願いいたします」
美湖も再度『こちらこそ、お願いします』と微笑んだが、彼女は目を合わせてくれなかった。
もう……、吾妻先生が毎度のチャラいからかいをするからと、美湖は思わず彼を睨でいた。吾妻も『ごめん』と口を動かしたが、おどけた顔で誤魔化そうとしているだけ。
しかも、美湖はもう一人。その鋭い視線に射ぬかれていた。
ナースである愛美の後ろに一緒にいるその青年。黒い短髪、浅黒く焼けた肌、ラフに来ているだけのティシャツにさらにラフに穿いているバミューダーパンツという若い男。その男が美湖を睨んでいる。
それだけでもう。美湖も悟った。
若い彼も思ったことだろう。『この島になにしにきたんだよ。ちゃらいことさっそくしてるんじゃねえよ』と……。
地元の島男と負けん気強い女医の視線がかち合う。
こちらとも最悪の初対面だった。
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