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「愛里ちゃんもそんな感じなんですか?」
訊きながら正面を一瞥すれば、蒼真さんとお父さんは何か真面目な顔して話していて、その隣では愛里ちゃんが何かを読んでいる。
私の視力がまともなら、あの薄い本は世間で腐女子と呼ばれている方々が好む書籍。
それをガバリと大胆に開き、新聞でも読むような眼差しで眺めている。ああ…表紙からしてあれは昼間に読むものじゃない気が…。
あれを家族の前で堂々と読むのだから、肝の据わり方が並みじゃない気がする。
「...愛里はちょっと変わっててさ、自分の世界があるんだよ。無口だし…、俺も愛里が何考えてるかよくわかんない」
横を向けば、呆れ果てたような横顔がある。
どんな反応が正しいのかわからなくて、とりあえずもう一度愛里ちゃんを見たら、視線が絡んでしまった。
何故か焦ってしまった私は親指を突き上げグーポーズ。
愛里ちゃんは瞳を輝かせて大きく頷いた。
「藤子さん、蒼真のことで困った事があったり、結婚式とかこれからのことで何か困った事があったらいつでも連絡してね」
「はい。ありがとうございます」
そう言ってお母さんと私は連絡先を交換した。
「あの…、差し出がましいですけど、蒼真さんとみなさんご家族の関係はこれからきっと良い方向に変わっていくと思うんです。あの、お互い少しずつ歩み寄る努力と言うか、お互いの胸の内を話していったりすれば。家族ですから、他人とするよりは何倍もはやく、距離が縮まるんじゃないかなって思います」
ってまた語ってしまった…。今日会ったばかりだっていうのに…。
「ありがとう藤子さん。蒼真は素敵なお嫁さんをもらうのね」
瞳を濡らしながら手を握ってくれたお母さんに、私まで泣きそうになってしまった。
それから小一時間くらい経った後、私と蒼真さんは仁科家を後にした。
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